魔法の鍵と隻眼の姫
これで、終わる…。

そう思って力を抜いたミレイアはドッと胸から血を流し目を瞑ったまま倒れゆくラミンを呆然と見ていた。

「…っ、きゃあっ!ラミン!」

我に帰ったミレイアは悲鳴を上げ、抱きついて一緒に倒れこんだ。

「ラミン!目を開けて!ラミン!」

すぐさま起き上がりラミンの体を揺すった。
ぐったりとした体、口からも血を流し、ピクリともしない瞼。
胸からはドクドクと血が流れ辺りを赤く染め、掌に付いた温かな血の感触に愕然とする。

「い、いや…いやっ!ラミン!大丈夫って言ったじゃないっ絶対に死なないって言ったじゃない!」

ラミンの体にすがって涙を溢すミレイアは渾身の力を振り絞り癒しの力を使った。
二人を取り囲むように淡い光りが纏い温かい気が流れる。

「絶対に死なせない!私が死んでもラミンは絶対…!」

死なせない…!



本当は、気付いていた。

あの剣を突き刺したとき…いや、穏やかに目を瞑って龍を取り込むとき、ラミンが全てを悟り死を受け入れたと気付いていたのに剣を突き立てた。

それがラミンの願いだったから。
ラミンを信じて、自分を信じて、明日を信じて突き立てた。

でも、これで世界が救われるとしても、やっぱりラミンに生きていてもらいたい。
死なせたくない。
自分より、大切なひとだから…。
・・・・



ここは本来雲の上。


黒い雲が無くなった今、ラミンとミレイアは重力に倣ってゆっくりと落下し始めた。
それにも構わずミレイアはラミンに抱き着いたまま無我夢中で力を注ぎこむ。
落下速度はスピードを増しミレイアの力は尽きようとしていた。

意識が遠のく。
このまま落ちて二人とも死ぬのだろうか…。

そんなことを思いながら体の力が抜けた時、一瞬、ラミンの腕が抱きしめてくれたような気がした。

たくましい腕、温かい手、優しい眼差し…
自分よりうんと大人でちょっと意地悪で一度も名前を呼んでくれなかった…。
それでも私はこの人に恋をしていたと今ならはっきりわかる。
ふんわりと暖かい大切な初恋。
この想いは未来永劫尽きることなくこの人に捧げよう。

「ラミン…あ…ぃ…」

ぷつりと意識が途絶えた。

………

「空が…」

霧の城の屋上で見守っていたキースとシエラ国王が眩しく光る太陽を見て目を細める。
黒い雲はひとつ残らず消滅し、久しぶりの青空を見て胸が震える。
それでもにわかに信じ切れなくてシエラ国王は呟く。

「成功…したのか?」


一部始終を見ていたモリスデンは、ミレイアの体の横で目を閉じ何かを唱えている。

ドサッ!

「いでっ!」

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