魔法の鍵と隻眼の姫
空を見上げていたキースとシエラ国王の後ろで何かが落ちる音がして振り向いた二人はギョッとした。

「ラ、ラミン殿!」

「あなた!酷い怪我をっ!」

腰を摩り痛そうな顔をするラミンの姿は胸が血だらけで青い顔をして口からも血を流し、世にも恐ろしい吸血鬼に見え、キースは一瞬戸惑いながらも駆け寄って傷の具合を確かめようとした。

「あ?え?怪我?」

傷があろう胸に手を当て、良く見えなくてすぐさま服を脱がそうとするキースにラミンが慌てる。

「お、おいっ!俺は男に脱がされる趣味は無いぞっ!怪我なんてねえ!」

キースの手を振り払い後ずさりするラミンは自分の今の状況にやっと気づいた。

「あれ、俺死んだはずじゃ…なんで血だらけなんだ?」

パタパタと自分の体を触ってみるも傷はどこにもない。
龍が自分の中に取り込まれたとき剣で刺されそのまま死んだはずだった。

「…ここは、死後の世界か?」

「何を言ってるんですかっ!ここは現世!あなたはちゃんと生きてます!」

私だって男を脱がす趣味はありませんよ!となぜかずれた怒りをぶつぶつと呟くキースに首を傾げるラミン。
掌にべったりと着く血を見て何とか思い出そうとする。

あの時、龍が全て自分の中に入ったとき、確かにミレイアが自分の胸に剣を突きたてたはず。
その感触は残っている。
そして自分はそのまま死ぬはずだったのになぜか生きてる。
ずっと目を瞑っていたから状況は見ていない。
でも、確か倒れた後何かが自分を包み痛みも苦しみも感じなかった。
温かさが心地よく無意識に抱き締めた…。

「あいつ…小娘が…?はっ!小娘!小娘はどこだっ!?」

ミレイアが何かしたのかもしれない。
そう思い当った時にミレイアはどこにいるのかときょろきょろと探しだす。

「ミレイア王女ならあちらに」

国王が指さす方にはモリスデンが背中を向け膝を着いているその向こうにミレイアの足が見える。
よろよろと立ち上がり歩き出したラミンは大量に血を流したことで貧血に陥っていた。
酷い眩暈がするのを押してモリスデンの横に立ち、横たわるミレイアを見下した。

「おい、ジジイ…小娘は…」

「息はしている…しかし目を覚まさない」

「は?」

しゃがみ込みミレイアの顔を覗く。
簡素な敷物に寝かされたその顔は穏やかな表情で眠ってるようにしか見えない。
モリスデンを見やるラミンは何が起こっているのかと目で問う。

「一瞬、ミレイアの力が解き放たれ、その後は徐々に弱まり命まで消えようとしていた」

「何だと?どういうことだ?」

ギロリと睨むラミンにモリスデンは首を振る。

「お前を助けるために持てる力全てを使ったのだろう。それこそ命を削って…。その証拠にお前は大量の血を流しながも生きておる」

「俺を?…やっぱりあの時…」

自分を包んだ温かな何かには覚えがある。
魔物にやられ胸に傷を負った時、ミレイアが手を当てたところから温かい気が流れ傷を癒し、身代わりになってくれた。

「俺の、身代わりになったってことか…?」

目を伏せたモリスデンはため息を吐く。

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