魔法の鍵と隻眼の姫
平穏な日々
「やあっ、とおっ!」
「踏み込みが甘いっ!もっと腰を落とせっ!」
カン!キンッ!と剣が打ち合う音が響き怒号が飛ぶ。
「やっ!あっ…!」
キィンと剣が弾かれトスッと地面に刺さった。
相手は息も切らせず構えていた体を戻し肩に剣をとんとんと落とす。
その後ろ姿は肩まで伸びた白銀の髪を一つにくくりすらっとした長身。
「また俺の勝ちだな、トニアス」
ニヤニヤした顔を見て悔しそうに歯噛みし、飛ばされた剣を取りに行くトニアス。
「次は必ず!覚悟しろラミン!」
「力み過ぎなんだよお前は!」
「うあっ!」
勢いよく突進してくるトニアスをひらりと交わし背中に回し蹴りをお見舞いした。
前のめりにゴロゴロと転び悔しそうに上半身を起こしたトニアスを見て薄ら笑いするラミンは極上に悪い顔をしていた。
「回し蹴りなんて卑怯だぞっ!」
「何言ってんだ、戦場じゃこんなこと日常茶飯事だ。まともに剣だけで戦うやつなんていないぞ!」
「く…くそっ!くそ!くそーーー!」
戦場を知らないトニアスは悔しいさを地面にたたきつけ仰向けに寝転び空に向かって叫んだ。
目に移るのは青空。
小鳥が飛び交いさわさわと木の葉を風が揺する。
白い雲が横切り、時折雨を降らせ大地に潤いを与える。
日が落ちれば満天の星空が見え朝が来ればまた日が昇る。
目を細め太陽の光を浴びる。
穏やかな日常。
ミレイアと、ラミンが取り戻した平和な世界。
「ほらよ」
いつの間にかいなくなってたラミンが水筒をトニアスに差し出す。
起き上がりそれを受け取ったトニアスの隣にドカッと座ったラミンは豪快に水筒の水をあおった。
ここは剣士の練習場。
城の東側にあり後宮にも近くトニアスはラミンに指南を仰ぎ度々剣を交えていた。
「…いい天気だな」
「ああ…」
片手を後ろにして支え上を見るラミンをちらりと見る。
空を見てると思いきや、その目線の先には後宮がある。
いつもそうだ、ことあるごとにぼーっとしたラミンを見ればその目線の先には後宮がある。
そこには未だに眠るミレイアがいる。
あの決戦の日から1年が過ぎ、ミレイアは誕生日を迎え17歳となっていた。