魔法の鍵と隻眼の姫
セイラスとリノンが部屋を出て行き、一人残ったトニアスはミレイアのベッドの横に立った。

セイラスも結婚する、ラミンも旅をすると言い出したのは前を向いて生きて行こうという表れだろう。
世界は復興し明るい未来が待っているはず。

でも自分は?

毎日ミレイアの部屋を訪れ目覚めるのを祈り、ただただミレイアの笑顔が見たいと一心に願う自分は前を向いていると言えるのだろうか?

ずっと小さいころからミレイアの事が大好きだった。
それは妹としてなのか一人の女の子としてなのかは自分でもわからない。

ふと、ミレイアが小さなとき大好きだった物語を思い出す。
眠りの森の姫が運命の王子のキスで目覚める話だ。
何度も読んでとせがまれたどたどしくも読んであげると目を輝かせて喜んだ。
キスで目覚めるところにくるといつもうっとりとした表情になり「私にも運命の王子様はいるかなぁ?」と聞いてきた。
その運命の王子が自分であればいいと密かに思っていたのは秘密だ。

「ミレイア、みんな君の目覚めを待ってる。起きてまた僕の名を呼んでくれ」

ベッドに腰を下ろし綺麗な黒髪をを撫でると今は眼帯の無い右目にキスをした。
じっと顔を見つめ頬をなぞる。
さくらんぼのような唇から目を離せなくなりゆっくりと自分の唇をその唇に落とした。
目覚めてくれと祈りを込めて。

……

ドキドキと胸が高鳴り我に返ったトニアスは頭を上げ胸を抑える。
頬にキスは何度もしたことがあるのに唇は初めてでさすがにしてはいけない事をしてしまったと後悔した。

ミレイアに目を向けると眠ったまま…。

「やっぱり…僕は運命の相手ではないのか…」

意気消沈し、トニアスはとぼとぼと部屋を出て行った。

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