魔法の鍵と隻眼の姫

「兄上、ここにいましたか」

「ああ、エルストンか」

ドリスター家の中庭に出るバルコニーで夜空を見ていたラミンに声を掛けた弟エルストンは車いすを器用に乗りこなし手すりにもたれ掛るラミンの隣に着いた。

「また、出て行かれるのですか?」

「ん?旅に出るだけだ。1ヶ月後には帰ってくる。強制的にだがな」

嘲笑気味に笑ったラミンはエルストンを見下す。
十数年前に別れたきり、久しぶりに会ったエルストンは立派な成年へと成長し、甘い顔は幼い頃のままだが違和感が半端なくまだ見慣れない。

「せっかく帰ってきたのに…父上ががっかりしますよ?兄上はここを継ぐ大事な跡取りなんだから」

「ふん、俺は後を継ぐとは言っていない。あのジジイに理不尽な約束させられたから仕方なくいるだけだ、ここは、お前が継ぐはずだったろう?」

「何言ってるんですか、みんな兄上が帰ってきて喜んでいるというのに」

くすくすと笑うエルストンを見つめ罪悪感が生まれる。
自分が出て行ったおかげで弟は弱い身体を押して父の後を継ぐために奮闘している。
なのに今更帰ってきて自分が継ぐなど甚だしい。
ラミンが見つめてくるのに気づいたエルストンはまっすぐと見つめ返した。

「前にも言いましたが、僕は伝承の全てを知っていた。兄上が帰ってくるのも知っていました。だから父上の後を継ぐ勉強は話し半分しかやってません。兄上の助けになればと思ってやっていたに過ぎない」

「それは…」

眉根を寄せるラミン。
帰ってきて父から聞いたドリスター家に伝わる伝承を全て聞いた。
ほぼキースやシエラ国王に聞いたことと一緒だったがそれをエルストンは聞かずして知っていた。
自分とは少し違うが同じ白銀の髪。
エルストンの秘めたる能力なのだろう。

「僕は後を継ぐ気なんてさらさらありません。兄上が旅から帰ってきたら、今度は僕が旅に出ます」

「…お前、その足じゃ…」

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