魔法の鍵と隻眼の姫

想いを辿る旅

ぽくぽくとウォルナーに跨がりミレイアと歩んだ道を辿る。
懐かしさはあまり感じない。
枯れ枝や枯れ草しかなかった森は青々と繁り草花が足元を覆い尽くす。

黒い雲が消え、太陽の光りを浴び息を吹き返した大地を感慨深くラミンは見つめた。

栗毛の愛馬ジュリアールに跨がり辺りを興味深く見回すトニアスも父に付いて国の視察はたまに行ったことがあるが今回初めての道をミレイアが通ったのかと思うと胸が熱くなる。

「今日はこの先のターコイズ村で宿をとる。その後はほぼ野宿だ、覚悟しろよトニアス」

「野宿!?まさかミレイアも!?」

「ああそうだ、結構楽しんでたぞ」

王女でしかも城から出たことの無いミレイアが野宿をしていたなんて思いもしなかったトニアスは驚く。
男の自分でさえ野宿なんてしたことが無いのになんて過酷な旅だったんだと愕然とした。

火をおこす度、簡素な料理を作る度喜んで目をキラキラさせていたミレイアを思い出してきゅうっと胸を締め付けられる気がしたラミンは思い出すほど沸き上がる想いを感じた。

だから、会いたくなかったんだ…。

眠ってるミレイアに対面した時から心がミレイアを欲している。
さっき別れて来たばかりなのに会いたくて、触れたくて仕方がない。

それと同時に罪悪感がしくしくと胸を抉った。
モリスデンが四方八方手を尽くしても目覚めないミレイア。
あの時自分を助けようと力を使わなければ今頃は元気な笑顔を見せていたのだろうか?とずっと考えてた。
だから自分の気持ちを自覚しつつもまだ認めたくない。

この旅は各地の復興を自分の目で見たかったのと同時に心の整理をつけるための旅。
ミレイアに生かされたこの命と向き合い、気持ちと向き合い、旅を終えたときどう結論を出すのか今はわからない。

「…ン、ラミン!」

「ん?ああ、何だ?」

思考の淵にいたラミンはトニアスに呼ばれ我に返る。

「ミレイアは辛くなかったのか?野宿なんて魔物に襲われたりしたら…」

「ああ、襲われたこともあったな。だが、泣き言は一つも吐かなかったぞ」

「お、襲われたっ!?」

さらに驚愕の事実を知って今度はトニアスの思考がぷつりと途絶えた。
ミレイアが…ミレイアが…と青い顔をしてぶつぶつと呟いている。

盛大にため息を吐いてラミンはトニアスをほっといて前を向いた。
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