魔法の鍵と隻眼の姫
森を抜けまた人里に降りてくると所々まだ手の付けられてない荒れた大地と家々が見える。
新しい家も点在しその間には畑が作られていたが、小高い丘には無数の墓が所狭しと建っていた。

戦、災害、魔物の脅威、病気に怪我…人々の暮らしには危険が付き物だと知らしめている。
悲しみ苦しみは無くなっていない、それでも人は涙を拭い、歯を食い縛り生きていく。

人は逞しい。
かつてアドラードが感じた人の尊さを各地を見てきたラミンもトニアスも実感している。

そして一番酷い戦況の地だったハウライトに着いた。

「ここは…」

「あいつが一番気にやんでいたハウライト王国だ」

ここを通り掛かった時はメリダヌス帝国と戦いハウライトが全面降伏した瞬間だった。
辺りは地獄絵図が広がっていた。

今はメリダヌス帝国の領地となってしまい、ハウライト地区と呼ばれている。
ハウライトの国王一家は各国の嘆願書のお陰で処刑を免れ、今はシエラ王国に身を寄せているという。

渇れることのない美しかったはずの泉もあの時は破壊され血染めの泉と化していたが、元通りとはいかないまでも綺麗に整備され、泉を拠点にメリダヌスへの河川が作られていた。
砂漠地帯に川を作り植物が育つような土地に改良するという。

河川建設に携わっている者に話を聞くとハウライトの者達がほとんどだったが奴隷として働かされている訳ではなくちゃんと賃金を払って雇われているそうだ。
戦が終結しても蟠りが無くなった訳ではないだろうが人々は対等な関係であるようだった。

「そうか…戦好きのメリダヌスも鬼ではなかったのだな」

話を聞いて回りホッと安堵するラミン。
泉の側では子供達の笑い声が聞こえる。
復興はまだまだだがきっとミレイアもこの状況を見たら喜ぶだろう。

遠くの丘から涙を流し一心に祈っていたミレイアの姿が目に浮かぶ。



泉のほとりの広場には復興を盛り上げようと、屋台や大道芸の者達がハウライトの人々を喜ばせていた。
その中に一際大きな人だかりと3台の馬車。
ラミンは何だか見たことあるなと思いながら通り過ぎようとした時に野太い男の声が聞こえた。

「さあさ!世界一の踊り子アマンダがハウライトの亡くなった人々に贈る鎮魂の舞と復興への祈りの舞をお見せしよう。ハウライトの者達には明日への糧としてもらいたい!」

「…アマンダ?」

ラミンはその名に引き寄せられるように人だかりの中に入って行き、ギターのゆっくりとした音と共に踊り出す踊り子アマンダを見て懐かしむ。

元気そうだな…。

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