魔法の鍵と隻眼の姫
揺れる体、悲しみを湛える表情、手が天へと伸び祈りを捧げているようなポーズでくるりと回る。
周りの人々は息を吸うのも忘れたように踊り祈りを捧げるアマンダを見つめている。

やがて音は止み地に伏せたアマンダの腕が鳥の翼のように動き出した。
それはまるで初めて飛び立とうとする雛鳥のようで思わず頑張れと声をかけたくなるように固唾を飲む人々。
ゆっくりと立ち上がりくるりと回ると弾けるような笑顔と幾度と跳び跳ね踊る姿を見て歓声が沸く。
ラミンはフードに隠れてるノニに話しかけた。

「ノニ、あの踊りお前に似てると思わないか?」

ノニは頭をひょっこりと出しアマンダの踊りを見て首を傾げている。
自分と比較するのはわからないかと肩を竦め前を向いたラミンは、前にバットリアで見たことのある踊りだと思い出す。
アマンダはミレイア達と旅をしたこともラミンの事も忘れてるはずなのに踊りだけは覚えていたようだ。

「ちょっとラミン!いきなりいなくなるなよ」

一人でふらりと人混みの中に入って行ったためにトニアスを置いてきぼりにしてしまっていた。

トニアスが振り向いたらラミンがいなくて焦ったが、白銀の髪が人混みの中で目立っていたためすぐに居場所はわかった。
ラミンに追い付くと皆が注目する美しく艶やかな身のこなしの踊り子にトニアスも目を奪われた。

「……すごい…きれいだ…」

「ああそうだな。行くか」

「えっ、踊りを見てたんじゃないの?」

「ああ、もういい…」

変わり無く元気そうに踊っているアマンダを一目見れただけで満足だった。
踵を返しさっさと人の間を縫って行ってしまうラミンを後ろ髪を引かれながらもトニアスは慌てて追いかけた。
立ち去った後に沸く歓声にまたトニアスは振り返りもっと見たかったと思ながらもラミンを追った。


< 189 / 218 >

この作品をシェア

pagetop