魔法の鍵と隻眼の姫
その夜はハウライトの宿に泊まることにした。
食事をしに訪れた酒場のカウンター席でで久しぶりの酒を煽る。

「お前飲める口だったか?」

「まあ、人並みには…。ラミンは強そうだね」

「まあな」

ニヤリと笑い食事もそこそこにアルコールの強いウォッカを次々と飲み干すラミンを見て苦笑いのトニアス。
トニアスが同じように飲んだらあっという間に潰れてしまうだろう。
ビールをちびちび飲みながら王族なのだから潰れて醜態だけは晒さないようにしようと思うトニアスだった。

静かだった店内にガヤガヤと賑やかな集団が入ってきてにわかに沸き立つ客達。

「コジット一座だ!」

入ってきたのはコジット一座の団員たちでぞろぞろと奥へ入って行く。

「よお~しお前たち!今日も良くやってくれた!月に一度の無礼講だ!飲んで食って大いに楽しめ!」

一番奥のソファー席にどっかり座った髭面の男が声を上げると団員たちの歓声がワーッ!と上がる。
その中には当然アマンダの姿もある。
後ろを振り向きその様子を窺っていたトニアスはアマンダに釘付けだった。

「あの踊り子さんがいる…。綺麗な人だな…」

赤いボリュームのある巻き毛に真っ赤な唇。猫目の瞳は琥珀色で目尻には泣きホクロ。体の線を強調した黒のリボンが付いた真っ赤なワンピースが彼女に似合っていてあんな妖艶な女性を見るのは初めてだった。

「お前あんなのが好みなのか?やめとけやめとけ、ああいう女は本気になると怖いぞ?いや、お前が遊ばれて直ぐにポイだな」

「むっ…そんなんじゃないし!そう言うラミンはどうなんだよ!」

ニヤつくラミンに腹を立て一気にビールを飲んだトニアスがラミンを睨む。

確かに顔も体も好みだった。気軽にお互い楽しんだ間柄だったが…
チラリと横目でアマンダを見たラミンは懐かしむように静かに言った。

「そうだな、好みだった…昔は」

「やっぱラミンはああいう人がいいのか!」

トニアスがチラチラアマンダを見ながらラミンに食って掛かるものだから、アマンダがこちらに気付いて近づいてきた。

「男はみんな好きだろ、ああいうの」

「僕を一緒にするな!…あっ…」

「楽しそうね。あなた、珍しい髪色してるわね」

トニアスを軽く受け流していたラミンの隣に手を着いたアマンダが二人の顔を交互に見ている。

「あら、いい男。どお?あっちで一緒に飲まない?」

妖艶に笑うアマンダに顔を真っ赤にして口を噤んでしまったトニアス。
ラミンはアマンダと目を合わせることもなく酒を煽った。

「ああ、俺たちはもう帰るところなんだ、悪いな」

「あらそう、残念。そう言えば昼間あなた私の踊りを見ていなかった?その白銀の髪が見えたわ」

「…ああ、見ていたよ」

「やっぱり!ねえ、あたしの踊りどうだった?」

可愛らしく首を傾げ期待するような目に口元を上げたラミン。

「そうだな、美しかった」

「ふふっ、ありがと」

手を合わせ喜ぶアマンダに立ち上がったラミンが目を合わせると、アマンダはドキッと胸を打ち顔を赤らめた。

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