魔法の鍵と隻眼の姫
ラミンの足で直ぐに魔物に追い付いた。
真後ろまで来たラミンは魔物のてっぺんを見上げる。
「まずは魔物に気付いてもらわないとな」
徐に剣を抜いたラミンは臆せず魔物の背中に飛び乗って剣を突き立てた。
カキーーーン……
「!ってえ~、やっぱ固いな」
突き刺すどころか弾き返され手が痺れた。
魔物は我関せずで町へと向かっている。
「くそ!」
魔物から飛び降り前へと出たラミンは腹を駆け上がり前足から顔へと飛び移った。
やっとラミンに気付いた魔物がギャオウッ!と吠える。
「よう!ドデカイ魔物さんよ!ちょっと砂漠まで散歩しようぜ!」
魔物の目の前でニヤリと笑って見せたラミンは柔らかそうな鼻づらを剣で思いっきり突き刺した。
ッガガーッ!!
叫び声を上げ短い前足で鼻辺りを押さえようとするところをひらりと飛び降り、ラミンはすかさず前足にも切りつけ魔物が悶える。
背中は固いが前の方は案外人間の剣でも刺せるらしい。
怒りで目を赤くする魔物はラミンを見据えると進んでいた方向を変えラミンを追いかけ始めた。
よしよし、そのまま砂漠の方へ行くぞ
足元は鬱蒼と茂る草に隠れた木の根っこやらで走りにくい。
ラミンは得意の跳躍で木の枝に飛び乗ると魔物を誘うように木と木の間を飛び抜けて行った。
こういう時には魔女の遺伝ってのは役に立つなと、魔法は使えないがこの身体能力のお蔭で数々の危機を潜り抜けてきた事を思い出す。
魔物は辺りの木々をなぎ倒しながらそんなラミンを追いかけた。
暫くすると薄暗かった周りが明るく木漏れ日が射してきた。
もうすぐ森を抜ける。
気が削がれたようによそ見をする魔物の気を引くように行ったり来たりしていたラミンはさすがにちょっと疲れが来ていた。
挑発するのにまた鼻を切りつけたときに前足で払われ足に傷を負ってしまった。
「ちっ、またヘマして小娘が怒るな…」
胸に傷を負った時に泣いて怒って心配するミレイアの顔が脳裏を過ぎった。
こんな時に何思い出してんだと一人突っ込みしながらにやける顔が元に戻らない。
無性にミレイアに会いたくなった。
「こいつをやっつけたら帰るかな…」
額に汗しながら魔物から逃げてる割にはのんびりとした思考が頭の中を巡る。
木々の間に明るい陽射しが見え、目を細めラミンは森を抜けだした。
「ラミン!」
馬で先回りしていたトニアスが目の前で待っていた。
「ナイスタイミング!よしっウォルナー行くぞっ!」
ウォルナーに飛び乗ったラミンは腹を蹴って一目散に駆け出して行った。
後ろを気にしつつそれに続いたトニアス。
ドゴーンッ!と後ろで木が破壊され地響きが鳴る。
土埃と共に現れた黒い巨体にトニアスはビビりまくる。
「うわっ!もうなんだよあれっ!山のお化けか!?」
「上手い言い回しだな!」
余裕の笑みを見せるラミンはチラリと後ろを窺う。
魔物は2本足でいたのが開けた場所に出て四つん這いになるとドスドスと地響きを立てながら追いかけてきた。
それは森にいた時より早くあっという間に迫ってくる。
少しでも遠くへ…
人気のない砂漠地帯へと急いだ。