魔法の鍵と隻眼の姫
どのくらい走っただろうか、草原を抜け砂漠地帯へと入ってきた。
ウォルナーは長時間の疾走にも関わらずへこたれずに走ってくれる。
流石はノアローズきっての体力のある馬だ。
トニアスのジュリアールもなんとか付いてきている。


「ここら辺でいいか」

ウォルナーの脚を緩めたラミンは後ろを振り向く。
時折挑発して来たから魔物は飽きること無く追いかけてきている。
魔物との距離は1Kmほど。それも直ぐに追い付かれるろう。

「ラミン!どうした!」

トニアスがジュリアールを止め声を掛けるとラミンはウォルナーから降り尻を叩いて一頭だけで走らせた。

「ここであいつを討つ!ウォルナーを頼む!」

「えっ?一人でやる気か!?」

「ああ、長い距離を走って来た。あいつも相当疲れてるはずだ。そこを突く!」

「だけどラミン…!」

まさか一人で対峙するとは思っていなかったトニアスの驚いた顔を横目で見てニヤリと笑う。

「王族のお前に何かあったら俺が国王に殺されかねないからな、俺に任しとけ!」

「何を今更!散々魔物と戦わせてたじゃないかっ!僕も戦う!」

トニアスに退治させていたのは彼の実力に合った小物ばかりだ。
今回ばかりは相手にさせるわけにはいかない。
ふっと目を伏せ首を横に振る。

もう目前に魔物は迫っている。
焦るトニアスは自分も戦うと懇願したがラミンは有無も言わさずジュリアールの尻を叩いて走らせた。

「お前はノニの結界の中で高見の見物してろ!行け!」

「ラミン!」

それでもトニアスは心配で手綱を引いてジュリアールを止める。
直ぐそこに迫っている魔物の正面に立ったラミンは剣を抜き横を向いた。

「安心しろ、俺は絶対死なねえ!」

そう叫ぶとラミンは向かってくる魔物に突進していった。
自分も!とトニアスも向かおうとすると従順なウォルナーが戻ってきた。
このままではラミンに付いて行こうとするウォルナーが危ない。

ギリッと苦い顔をしてトニアスはウォルナーの手綱を掴み場所を離れた。
ここは砂漠なので隠れる所も無くラミンが小さく見える場所まで離れるとノニが結界を張って馬たちを囲んだ。
ラミンは魔物に飛び乗り切りつけながらその場に留まらず移動している。
それを追いかけながらラミンを襲おうとする魔物。
ラミンの跳躍の凄さに圧倒される。

「ノニ、馬たちを頼む!」

トニアスも加勢しようとジュリアールから降りたところでノニがトニアスの耳を引っ張った。
耳を押さえるとそれをひらりとかわして、ノニはトニアスの顔の前に来ると一生懸命首を横に振る。

「ノニ頼むよ」

それでもノニは横に首を振り泣いて震えている。

「ノニ…」

涙を飛ばして首を振り続けるノニを置いていく事が出来ずに困り顔のトニアスは震えるノニを掌に乗せ、戦うラミンを見つめた。
< 196 / 218 >

この作品をシェア

pagetop