魔法の鍵と隻眼の姫
ゆく先々で枯れ木が目立ち草も生えない物悲しい道を行く。
ラミンの馬はウォルナーといい、黒毛の雄で王国一の体力の持ち主を宛がわれた。
ミレイアの馬は栗毛のフィーダという名の雌馬。
穏やかな性格で乗馬の練習をするときいつも乗っていて気心の知れた仲だ。

「お前、馬に乗れるんだな?」

「お前じゃないし…ええ、そうよ。おかしい?」

ゆっくりと城下を降りる間無言もどうかと思い話しかけたラミンはお前と呼ばれ機嫌が悪いミレイアのつっけんどんな物言いにちょっとムッとする。

「別におかしくはない。城も出たことの無い箱入り姫が馬に乗れるなんて思わなかっただけだ」

不機嫌そうに言うラミンにふんと鼻でせせわらうミレイアは遠くを見つめ語りだす。

「乗馬はお兄様たちに教えてもらったわ。城内の牧場だけど。でも、私は広い草原や海沿いをフィーダと駆けたこともあるわ」

「あ?城を出たことがあるのか?」

セイラス達は一様に姫は城を出たことが無いと言っていたが…どういうことだ?
ラミンが頭をひねってるとその答えをミレイアはあっさりと打ち明けた。

「そう、こっそりモリ―に連れ出してもらって色んな所に行ったわ。草原に海沿いの小さな漁師町、国の外れにある森には珍しい薬草が生えていて一緒に採ったり、それに戦いを繰り広げる戦場にも…。モリ―は色んなものを私に見せてくれた。お父様やお兄様が見せてくれない人の愚かな感情も…」

項垂れるミレイアは悲しげな目でフィーダの首を撫でている。
しかし目尻の涙を拭き毅然と前を向いた。
大事に溺愛してきた王たちは姫の表面しか見ていなかったようだ、姫は深く広く、この世界を見ていた。
弱いだけではないその王女たる表情を見てラミンは感じた。

「あのジジイ、王たちを欺いて姫に汚いものも見せてきたわけだ。とんだ狸ジジイだな。」

「モリ―の事を悪く言わないで!お父様たちは私を大事に守ってくれた。モリ―は私に真実を教えてくれた。私にはどちらも大事な人たちなの」

キッとラミンを睨み、ミレイアは馬の腹を蹴って駆け出した。

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