魔法の鍵と隻眼の姫
世界は荒れているとはいえここはまだ王都の近く。物流も盛んでそれほど影響はないように見える。
それでも店先に並ぶ食料はあまり肥えているとは言い難く痩せた土地での農業も楽ではないことが窺える。

「ここにしようぜ」

屋台の中心。
一際大きな屋根に覆われたその屋台は居酒屋のようで、店先に置いてある椅子とテーブルにはたくさんの人たちが食事やお酒を楽しんでいた。

一つ空いていたテーブルにミレイアを座らせると、ラミンが「何を選んでいいかわからないだろ?俺が適当に買ってくるから席を取っといてくれ」と言い残し買いに行ってしまった。

「・・・・」

一人取り残され、ミレイアは周りを見渡す。

楽しく談笑する男女。美味しそうに肉を頬張る子供。優しそうに子を見守る母親。
そして屋台の行列に並ぶラミンを熱い眼差しで見つめる女性たち…。
ここは、負の感情が見当たらない。
ホッとすると少しフードを上げた。

「お、なかなかの別嬪さんが一人でいるとは。お嬢さん隣いいかな?」

「え?ああ、…どうぞ」

周りはどこも人で溢れ席が空いてそうにない。
仕方なく頷いたミレイアに、どうもどうもと彼女を取り囲むように二人の若い男が椅子に座った。

「お嬢さん一人?酒でもどう?」

「おお、美人じゃん。俺たちラッキー、ねえ、そのフード取ってもっと顔見せてよ」

「あ、いや、」

矢継ぎ早に二人の男に言い寄られ酒を勧められ困惑気味のミレイアに容赦なく手が伸び、
さっとフードを取られると艶やかな髪がランプに照らされる。

「へえ、綺麗な黒髪だね。ん?その目、どうしたの?」

「あ…」

フードを取られ慌てたミレイアは前髪に隠れた眼帯をバッチリ見られてしまった。
サッと手で押さえて俯く。

「これは…生まれつき、病気で…」

「あ、ああ、そう。それはお気の毒に…」

それ以上言葉の出ない男たちに沈黙が漂う。

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