魔法の鍵と隻眼の姫
美味しい料理に満足した二人は屋台を見回りながら宿屋へ戻る。
どこもかしこも賑わい楽しそうな声が聞こえ色々なものが売っていてミレイアはキラキラとした目で楽しんだ。
そんなミレイアを見てラミンも頬が緩む。
そして、そんなラミンを見て女たちは夢心地で微睡んだ。
その道すがらワーワーと騒ぐ集団があり何事かと近づこうとしたラミンのローブをミレイアが引っ張った。

「ん?どうした?」

「私疲れたわ、早く、宿に戻りましょう…」

「あ、ああ」

急に青い顔をして神妙にしているミレイアを不思議に思いながらも騒ぐ集団を横目に宿屋に戻ろうとした。
ところが通り過ぎようとしたときにドカッと鈍い音と共に目の前に一人の男が転がり込んできた。
びくっと反応するミレイアを庇うように手を広げるラミン。
どうも喧嘩をしていたらしい男が殴られたか蹴飛ばされたかしてここまで転がってきたらしい。
うおおおお~っと雄叫びを上げて起き上がる髭面の男は相当酔ってるようで目が座っていた。

「オラオラどうしたぁ~もう終わりかぁ~」

喧嘩相手だろう集団の中にいた男も相当酔ってるらしい、足がふらついてる。
周りの囃し立てる男どもも酔っぱらってヤジを飛ばす。

「おおおお俺がおわるわけねえべぇ~」

ヨタヨタと目の前を通り過ぎ集団の中に入って行く男をラミンが顔を引きつらせて見ていた。

「なんだよ、酔っ払い同士の喧嘩か」

またワーワーと騒ぎ立てる集団を横目で見ながら後ろにいるミレイアに目を向けた。
先ほどより青い顔をしてガタガタと震えているのを見てぎょっとする。

「おい、どうした?」

握りしめていたラミンのローブに力が入る。
早く、早くここから立ち去りたい…。

「あんなに黒い雲が渦巻いてこの国ももう終わりだ!あんな王女が生まれたばっかりに俺たちはひどい目に合ってんのに!」

「そうだそうだ!だに、生まれた娘にミレイアなんて名前付けたらいじめられっぞ!」

「そんな悪趣味な名前よう付けられんだな!」

「なにおう!ミレイアってのはおらの天使って意味だぞい!綺麗な名前だろが!」

子の名づけにいちゃもん着けてる喧嘩らしい。
しかも、ミレイアだなんて…。
男たちの会話に気を取られてハッとミレイアを見るとまだ震えていてフードの中の表情は窺い知れない。
こんな喧嘩、自分の事が原因だと思うとさすがにミレイアも胸が痛いだろう。
それに今世界で起こっていることはミレイアのせいじゃない。
ちょっとばかし物申そうとラミンが一歩前へ出ると握られていたローブに引き留められた。

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