魔法の鍵と隻眼の姫
「っと、おい…」

振り返りミレイアを見ると、震える手を離し前へと進む。
堂々と喧嘩する男たちの間にに入って行くミレイアをラミンは呆然と見てしまっていた。

「喧嘩は止めてください。」

突然現れたフードの人間に静かに諭され怪訝な顔をする男たち。

「何だお前?」

「だれだ!おらの娘の一生がかかってんだぞ!邪魔すんな!」

怒鳴り散らす男の前に立ったミレイアは男の胸元に手を当てた。

「あなたのようなお父様が守ってくれて娘さんは幸せです。」

「お、おおう…」

目をぱちくりさせた男は怒りが消えていくように顔が和らいだ。
振り返ったミレイアは相手の男の胸にも手を当てる。

「あなたはこの方のお子さんの行く末を案じた優しい方ですね?」

「え、いや、それほどでも…」

我に返ったような男は恥ずかしそうにこめかみを掻く。

「なんだなんだ、誰かが喧嘩を止めたぞ?」
「女か?」
「誰なんだ?面白い余興だったのに」
「だれだお前?」

「…私は…」

徐にフードを下し顔を晒したミレイアを見て周りの男どもが息をのむ。
艶やかな黒髪、白い肌に赤い唇、吸い込まれるように綺麗な紫の瞳、そして、右目の眼帯…。
先ほどの震えなど無かったように堂々と強い眼差しを男どもに向けていた。

「私の名はみ・・・」

「みーっみ、みみみみっ、ミミって言うんだ!俺の連れだ!綺麗だろう?」

ミレイアが名乗ろうとすると突然割ってきたラミンはやたらとミを連発して肩を抱いた。
唖然とする周りの男どもとミレイア。

「誰が、ミミですって?」

訝しげな目で見上げるミレイアを「うっさいもう黙れ」と小声で言って足早にその場を去る。

「あっ、じゃあ喧嘩も終わったし帰るか!じゃあな~」

その姿を見送った男たちは興が削がれたようにわらわらと散っていく。
喧嘩をしていた男たちも首をひねりながら千鳥足で帰って行く。

俺っち、なんで喧嘩してたんだべ…?。
さっきまで何していたか思い出せない男たちは最後には酔っているせいだと納得してうんうんと頷いた。
まあ、そんな日もあるさ。
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