魔法の鍵と隻眼の姫
宿屋へ着いたころには息も荒く青い顔をしているミレイアを抱きかかえるように部屋へと入ったラミンは彼女をベッドに寝かせ、額に手を当てる。
少し熱っぽい。

「おい、大丈夫か?」

「…はあ、はあ…大丈夫、少し、寝れば治るから…」

少しも大丈夫そうじゃないその様子を困ったように見下ろすラミン。

「はあ、強がりは口だけにしてくれ、ちょっと待ってろ」

ため息をついて出て行ったラミンを薄目で見てミレイアは息を大きく吐いた。
時々現れるこの症状。
原因はわかってるがラミンには話したくない…。

目を瞑り朦朧としているところに桶を持ったラミンが帰ってきた。
桶には冷たい水と氷。
ベッド脇の棚に置くとタオルを濡らして絞りミレイアの額に乗せた。
冷たくて気持ちいい。
そのままミレイアは眠りについた。

ベッド脇に椅子を持ってきてミレイアの様子を見ながら時々タオルを濡らしてやっていると幾分か呼吸も落ち着いてきて穏やかな表情になってきた。

突然震え出し青い顔をしたかと思えば発熱。
旅の初日からこれじゃあ先が思いやられるな…。
王女が病弱だとは聞いていない。王たちは誰も体調の事は言っていなかった。
だとすると得意の隠し事か…?

眉根を寄せてミレイアを見つめるラミン。
さっきの男ども、王女に触れられて急に大人しくなったな?
そう言えば出発の時、吠えてたトニアスにも同じことをしていた…。
なにかあるな?

そう思いながらベッドに肘をつき顎を乗せる。
顔に掛かる髪をそっと避けてやると身動きしたミレイアはこちらに顔を向けた。
あどけない寝顔。
まだ15かそこらの小娘のくせに、男どもの前に出たその顔は凛としてまさに王女そのものだった。

「お前、あの時自分は王女だと名乗ろうとしただろ…」

自分のせいで喧嘩している様を見過ごせなかったのかもしれないが、あの時名乗り出ていれば、憎悪に塗れた人々が何をするかわからない、命の危険もあっただろう。

荒れた世界にしたのは王女のせいではないのにな。
あのまま立ち去ればよかったものを…。

「まあ、俺もひと言言ってやろうと思ってたけどな」

ラミンは苦笑いを浮かべミレイアの寝顔を見つめた。

ふと、また好奇心が疼く。

右目の眼帯。
こいつ、寝てる時も眼帯は着けたままなんだろうか?

そおっと手を伸ばすと眼帯に触れるか触れないかのところでピリッと静電気のようなものが指に走った。

「っと、いけねいけね、触るとまたこいつが怒りだす」

我に返ったように手を引っ込めると、タオルを濡らし額に乗せてやる。
また肘をついて間近で寝息を立てるミレイアの顔を飽きることなく見つめ続けた。
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