魔法の鍵と隻眼の姫
叩かれる!
そう思ったミレイアは咄嗟に目を瞑ると額に温かい温もりが当たり恐る恐る目を上げた。

「とりあえず、熱はないようだな?体は大丈夫か?」

以外にも優しく額に手を当て聞いてくるラミンにミレイアはドギマギした。

「え、あ、うん。寝てれば大丈夫って言ったでしょ?」

ふうっとため息をついて腰に手をやると呆れたような顔をするラミン。

「お前、よくなるのかその状態」

「…うん、たまに…。でも、病気じゃないわ」

気まずそうに俯くミレイアを見てラミンはまた目を細める。

「病気じゃないなら何なんだ?」

「えっと…その…」

言い淀むミレイアにイラッとしながらラミンは腕を組み見下ろす。

「言いたくないなら今はいい、後でゆっくり吐かすから。それよりお前もう面倒事に首突っ込むなよ?」

「え?なんで?」

なんだか恐ろしいことを先に言われた気もするが首を突っ込むなと言われ首を傾けるミレイアにラミンが言った。

「お前、危なっかしいんだよ。昨日あいつらの前で自分が王女だって名乗ろうとしただろ?言ったら最後どんな目に合うか想像できないこともないだろうよ。あんま心配かけんなって言っただろ?」

「あ、うん、ごめんなさい・・・」

自分の無謀さを咎められしゅんとするミレイアは素直に謝った。

「それに、あんなんに巻き込まれただけでお前、身が持たないだろ?」

「え?」

図星を突かれ驚くミレイアの頭に手を乗せるとにっこり笑ったラミン。
やっぱり、こいつは人の感情に敏感なんだな。
どういう理由でそうなるのか解らなかったがラミンの勘はなかなか鋭い。

「ま、これからはなるべく人を避け森に行けばそんな心配もないがな」

優しく笑いポンポンと頭を撫でるラミンに安心したように顔を綻ばせるミレイア。
深くは聞いてこないラミンに看病してくれたことも含め感謝した。

「ありがとう、ラミン」

満面の笑みを向けてくるミレイアに今度はラミンがドギマギした。

「お、おう。じゃ俺もシャワーでも浴びて来るわ」

「あ、じゃあノニ、ラミンの服も用意してあげて?」

バスルームに入ろうとしたラミンの後ろでミレイアが言うと、ノニはくるくると舞い上がりラミンの前に行くと金粉を手の上に振り落した。
するとぼわっと煙が出て着替え一式、下着まで出てきた。

「おわっ?すげー」

突然の事にびっくりしたラミンは振り返り、ミレイアとその周りを飛ぶノニを交互に見た。

「ノニは物の瞬間移動もできるのよ。これもお城から届けてもらったの」

そう言えば昨日と違いミレイアの服装は水色の動きやすそうなワンピースになっている。
だから、持ち物が小さなカバン一つだけだったのか。

「へえ、そりゃ便利だな?」

感心したようにノニを見るとミレイアの掌の上に停まりエッヘンと得意そうに胸を張つている。

「いっぱい褒めてあげて?ノニは褒めると力が沸くのよ」

「おう、そうか。お前凄いな?人間には出来ないことだ、もっと胸張っていいぞ?」

ノニに近づき優しくつついてやると、顔を赤くして恥ずかしがり悶える姿に頬が緩む。
ミレイアに目を向けると嬉しそうに二人を見ていた。
目が合い微笑み合っていると一瞬時が止まったように思えた。

「…あ、じゃ、風呂入る。これサンキュ」

我に帰ったラミンは服のお礼を言ってそそくさとバスルームに入って行った。
その姿を見送ったミレイアとノニは目を合わせてプッと笑った。




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