魔法の鍵と隻眼の姫

森と秘密

村を離れ人里も無くなり静かな山道をポクポクと馬を歩かせそよぐ風に頬を撫でられる。
暖かい今日は日向ぼっこでもしたい気分だ。
黒い雲が邪魔してあまり日差しはないけど…。
先を行くラミンの背を見飽きたミレイアは鞄をごそごそとかき回し一枚のハンカチを取り出した。
赤い糸で見事に花の刺繍が施されているそのハンカチは宿屋をチェックアウトするときに女将から貰ったもの。

「これはこの村の特産品なんだけど、祭りの日だけ泊り客にこうやってプレゼントしてるのさ。村のお針子が一本一本旅人の無事を祈りながら刺繍したお守りみたいなもので持ってると災いを除けられるってもっぱらの評判なんだ。あんたたちも持ってお行き」

渡された2枚のハンカチは一枚が赤色の糸で、もう一枚は青空色の糸で同じ花の刺繍を施されたお揃いの柄だった。
綺麗な刺繍を指でなぞり昨日の楽しかった祭りを思い出しているといつの間にか隣に寄って来ていたラミンに覗きこまれる。

「お前、それよほど気に入ったんだな?何なら俺のもやるか?こんな花の刺繍俺が持ってても気色悪いし」

そう言って差し出してきたお揃いの青空色の花が施されているハンカチを手ごと押しやったミレイア。

「だめよ、これはお守りでもあるんだからちゃんと肌身離さず持っていて」

ラミンを一瞥すると大事そうにまた鞄にハンカチを仕舞った。
ちぇっと肩を竦め仕方なくまたポケットに無造作にしまったラミンは村人に聞いたある話を思い出していた。
この旅は魔法の鍵を探すためのもの。
村人に聞きまわったラミンは一つの情報を得た。

「東にあるアイオライトという町の外れに魔法で封印された祠があるという。何人たりとも足を踏み入れることが出来ないその祠は町人も気味悪がって近づけないらしい」

この世界は少なからず魔法がある。
モリスデンがそうであるように魔法使いもいる。が、使えるものは少なくほとんどの人は魔法が使えないし見たことが無い。
不思議なことがあると魔物のせいか?魔法のせいか?と恐れられるほどだ。
そんなだから魔法で封印された祠なんて誰も近付きやしないだろう。

まず、そのアイオライトへ行ってみよう。
ここからその町まで2日はかかりその道中泊まれる宿屋は無い。
野宿になるかもしれないが大丈夫か?とミレイアに聞くと

「野宿?わあ、楽しそう!焚火をして星空を見ながら寝るのね?昨日お父様たちにお祈りできなかった分沢山お祈りするわ!」

嬉々として受け入れたミレイアを唖然とした顔で見てしまった。
何とも箱入りとは思えない肝の据わった王女様だ。
これもじじいの教育か?
フォッフォッフォッとほくそ笑むモリスデンの顔が思い浮かぶ。

「まあ、いやだと言われてもどうしようもないからいいんだが…」

「ん?何か言った?」

ぽつりと言ったラミンの呟きに反応したミレイアが顔を覗き込んでくる。
どきりとしたラミンはそっぽを向いて誤魔化した。

「なんでもねえ、行くぞ」

ウォルターの腹を蹴り駆け出し前を行くラミン。

「あっ!待ってよ!」

追いかけるように付いて行くミレイア。
もう離れてカミナリを落とそうなんてこれっぽっちも考えていなく、離されないようにラミンに付いて行く。
優しさを見せるラミンに心を開きかけている王女はこの旅が過酷なものとは思えないほど楽しんでいた。


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