魔法の鍵と隻眼の姫
先を急いだにもかかわらず、森を抜けられず日も傾きかけた頃。
小川のほとりにある木の側にちょうどいい平らな場所を見つけて今日はそこで野宿することに決めた。

森には魔物が棲む。
危険極まりないがこのまま強行して森を抜けてもさほど危険の差はない。
ラミンは無理するよりは休んだ方がいいと判断した。

途中王が放った憲兵に遭遇し、魔物が出たか聞いてみると今のところは出ていないとのこと。
モリスデンの時を止める魔法が魔物の捕食本能を呼び覚まして人里に下りることも懸念されたが今は大丈夫なようだ。

ラミンが火を起こすのをわくわくした顔で見ていたミレイアは火が付くと手をたたいて喜びキラキラとした目を炎に向ける。
近場で取った山菜を料理するラミンを見て感心するミレイア。

「すごいわ、ラミン。火を起こしたり料理したり。何でもできるのね?」

「そりゃ、ずっと傭兵やってて野宿なんて当たり前だし、何でも自分でしないといけないからな。生きるための術だ」

「傭兵…そんな戦いの中にいて虚しくはなかったの?戦なんてただの殺し合い…」

先ほどまでのキラキラした目が曇り影を落とす。
料理の手を止め俯くミレイアを見てため息を吐くラミン。

「虚しいに決まってる…。でも俺は仲間を守るために戦ってきた。目の前の仲間を、守るべき者のために戦ってきたことは俺の生きる意味でもあり誇りだ。」

顔を上げると真っ直ぐ見据えられてドキリとしたミレイアはその目を離せないでいた。
信念を持った凛としたその眼差しに言葉を飲みこむ。

「ま、戦いが無くなればそれに越したことはない。それに今の俺の存在意義はお前を守る事だ。王女の護衛だからな。必ず守って迷いの森まで連れていく」

「あ、そ、そう…ありがと」

ふっと笑いかけるラミン。
頬に熱が籠るのを感じたミレイアはそっけなく言うと立ち上がった。

「ちょっと、河原を歩いてくるわ」

「おい、あんまり遠く行くなよ。魔物が現れるかも知れないし、迷子になったら困る(俺が)」

「ちょっとそこら辺歩くだけよ」

ムッとして、つんと顔を背け歩き出した。
ラミンは苦笑いしながらもミレイアを目で追っていた。

辺りを見回しながら川のほとりラミンの姿が見える位置に止まったミレイアは空を見上げた後、しゃがみ込み川を覗き込む。
この辺りはまだ黒い雲の影響が少ない。
雲の切れ間に星が瞬いて水面に映る。

お母様はどうしているだろう。
お父様は今日も国の異変に奔走して、お兄様たちもお父様を手伝い走り回ってるかも知れない。
国を守るため、人々の苦しみを少しでも癒すためお父様たちは寝る間を惜しんで働いている。
それでも荒れ果てる世界は止められない。

「私が、この荒れる世界を止めることが出来たなら、戦いを無くすことが出来たなら…」

呟く言葉は闇夜に消える。
見つめる水面の星々がすうっと無くなり黒くなった。
何気に上を向こうとした時、

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