魔法の鍵と隻眼の姫
「小娘っ!逃げろっ!」

ラミンの叫び声に後ろを振り向くと大きな熊のような体に牛のような頭をした魔物が赤い目をギロリとミレイアに向けていた。

「きゃっ!」

大きく振りかぶった腕がミレイア目がけて振り落される。
逃げることが出来ずに立ち竦むミレイア。
ブンッと風を切る音がして目を瞑ると反対側から強い力で飛ばされたような気がした。

「ちっ」

耳元で舌打ちが聞こえて恐る恐る目を開けると頬に傷を負ったラミンの横顔が間近にあった。

「ら、ラミン…」

剣を片手にミレイアを抱くラミンは魔物から目を離さない。
逃げろと言われた時、まだラミンは焚火の側に居た。
ミレイアの居るところまでは10mはあったはず。その距離を一瞬で走ってきたのか?
信じられない思いでラミンを見つめる。
頬から滴り落ちる血。

「小娘、後ろに下がってろ。他の魔物が居るかもしれねえ、あまり遠くへは行くなよ?」

ラミンの血が付いた大きな爪を舐める魔物から目を離さないままミレイアを後ろへ押しやったラミンは剣を両手で構えた。
グオオオオーッと雄叫びを上げた魔物はラミン目がけて襲ってくる。

「ラミン!」

思わず手を伸ばすが一瞬早く前へ出たラミンはミレイアの手をすり抜け、振りかざしてきた爪を剣で難なく受け止め押しやった。
そしてすかさず間合いに入り込み胴を切りつける。

「グワアアア~ッ!」

悲鳴を上げる魔物に容赦なく次は腕を切りつける。
痛みに苦しむように無茶苦茶に両手を振り回す魔物を飛び退け、剣で受け、間合いに入り確実に切り込んでいく。
早い立ち回りに目が付いて行かない。

「すごい…」

ラミンの戦っているところを初めて見たミレイアはあまりの戦いぶりに恐れ戦く。
あの身体能力。並みの人間の成せる業じゃない。
息も絶え絶えになってきた魔物の攻撃を避けた足元に大きな石があり、次の一手を出そうと踏み出した時、ラミンの体はぐらついた。

「おわっ・・・」

体制を崩したラミンに振り回された魔物の爪が襲いかかる。

「きゃあっ!ラミン!」

思わず悲鳴を上げ、一瞬目を瞑ったミレイアは恐る恐る目を開くと、後ろに飛び退いたらしいラミンが膝を着き俯いてるのが見えた。

「あ・・・・」

口元を押え言葉を失うミレイア。
ゆっくり立ち上がったラミンの胸には魔物に切り裂かれた服が見え血が滴り落ちる。

「ちっ、油断した。次で最後だ」

一瞬きらりと眼光が鋭く光り、グッと体制を低くしたラミンは大地を蹴って大きく跳んだ。
そして光のごとく剣を振りかざすと魔物の頭上を飛び越えひらりと着地した。


「・・・・」


魔物は悲鳴もないままどさっと首が落ち、立ち竦む胴体。
それもゆっくりドスッと倒れると青い炎が立ち上がる。
振り返り剣を収めたラミンはその様子を冷たい目で見下していた。

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