魔法の鍵と隻眼の姫
緩んだ手から手首を引き抜き、また傷を拭かれ痛そうに顰めるラミンはもう何も言わなかった。

「これは私が作った軟膏よ。これくらいの傷すぐに治るわ」

血を拭い切ると鞄から出した軟膏をたっぷりと塗ってガーゼを当てる。
最後に掌がガーゼを覆い温かな熱が頬に伝わる。

「次は胸よ、その破れた服を脱いで」

促され大人しく服を脱いだラミンの体を見てミレイアは一瞬固まる。
程よく筋肉の付いたたくましい体。
目のやり場に困るが傷を見ると大きな傷が3本走り、そのほかにも古い傷があちこちにある。
これは戦いに興じてきた痕だろう。
そして、胸を中心に肩にかけて黒い何かがある。

「刺青?…不良…」

よく見ると鱗のようなものが見えて蛇みたいに見える。
刺青はこの時代では不良と、マフィアのぐらいしかしない。
スッと細目でラミンを睨んだ。
まさか裏社会にも首を突っ込んでいるのか?

「違う!これは、生まれつきの痣だ。…昔は小さなものだったが、成長と共に痣も大きくなっていった」

「あら、そう…。そういえば、あなたの戦いぶりは見事だったわね?凄い身体能力」

一瞬疑ってばつが悪くなったミレイアは話を逸らした。
眉を上げたラミンはそのまま何でもないように話に乗った。

「そうか?まあ、子供の頃から運動だけは得意でそこら辺の優男よりは体も丈夫だ。でもまあ、俺の体力の半分でも弟に分けられたら弟も元気だったかもな…。」

「そうなの…」

ラミンの弟エルストンは病弱であまり屋敷からも出たことが無いという。
セイラスとは幼馴染でよく会っているようだがミレイアは会ったことが無い。
弟の事を想っているのか黙ってしまったラミンにミレイアはそっと傷にタオルを当てる。
また顰め面のラミンに気を遣いながらゆっくりと血を拭ってやった。

丁寧に薬を塗りガーゼを当て包帯を巻く。
背中に包帯を回すたびにミレイアの髪が頬に触れくすぐったい。
それにいい匂いがする。
ラミンは無意識に深呼吸してふうと息を吐いた。
最後に胸に手を当てミレイアの手の温もりが伝わってくる。
とても暖かくて安心する。
思わず微睡み目を閉じそうになるとスッとその温もりが無くなった。

「さあ、傷の手当は終わったわ。しっかり食べて眠れば傷もすぐに癒えるわ」

「…ああ、さんきゅ」

目が覚めたような気分で瞬きして立ち上がるミレイアを見つめた。

ラミンの作った鍋をミレイアがよそい無言で二人で食べた。
傷を負ったラミンの代わりに片付もミレイアがした。

「悪いな、王女様が片付なんてしたことないだろう?」

「大丈夫よ、ノニが手伝ってくれるから…」

カランと持っていたスプーンを落とし、自分の手を見つめるミレイア。

「おい、どうした?」

「あ…私も疲れたわ。もう休みましょう」

「ん?…ああ」

落としたスプーンを拾い仕舞うとサッとローブを身に纏いラミンに背を向け横になった。
ラミンは無言でミレイアの背を見つめていたが自分も疲れてるのか眠気が襲う。
少し様子のおかしいミレイアを気にしながらも目を閉じた。



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