魔法の鍵と隻眼の姫
う…うう…ん…

呻き声が聞こえてうっすらと目を開けたラミンは辺りを見回す。
森はシーンと静まり返り藍色の空は段々と明けようとしていた。

目の端でキラリと光り目を向けると燃え尽きた焚き火の横で背を向けて寝ているミレイアの頭辺りにノニが飛んでいる。

「ノニ?」

ラミンが声を掛けると目の前に飛んで来て困ったような顔をして鼻をつつかれた。

「なんだ?」

背を預けていた木から起き上がるとまたミレイアの頭上へ飛んで旋回している。

「う…」

小さな呻き声がまた聞こえる。
ミレイアの顔を除き混むと赤い顔をして眉を潜め苦しそうな顔で目を瞑っている。

「おい、どうした?」

額に手を当てると熱い。
また熱が出たのか?
昨日は人のいるとこにはほとんど行ってないのだが?それとも慣れない野宿で風邪を引いたか?
まずは熱を下げる為にタオルと水だ。

ラミンは昨日自分の血を拭う為に用意された桶とタオルを持って水を汲みに行く。
川でしゃがみこみ水を汲もうとした時、頬に当てられたガーゼが取れかかっているのに気付いて、それを取りどれ位の傷跡か見ようと川を除き込んでラミンは驚いた。

「傷が…ない」

暗がりの中うっすら見えるその顔に出来た筈の傷が無い。
触ってみても痛みも無く跡形もなく消え去っている。
ミレイアが作ったと言う軟膏のお陰だろうか?
はっとしてシャツも脱いで巻かれた包帯も解くとゆっくりガーゼを取った。

「やっぱり、ない」

古傷はそのままに昨日引き裂かれた3本の傷は跡形もなく痛みも無い。
振り返り寝ているミレイアの背中を見た。
まさか…
急いで水を汲みミレイアの元へ戻ると心配そうに顔を除き込んでるノニに聞いた。

「ノニ、こいつ寝た後ずっと苦しんでるのか?」

ノニは気まずそうにゆっくりうんと頷いた。
ラミンはタオルを濡らしそっとミレイアの額の汗を拭う。

「もしかして、俺の傷のせいか?」

ノニを見つめると困った顔をするだけでうんともすんとも反応しない。

「こいつに言うなって言われたのか?」

ノニはブンブンと首を振りミレイアの髪の中に隠れてしまった。

「…言われたんだな」

ふう、っとため息を付いてミレイアの顔を除き込む。
額にタオルを当ててやっても目を覚ます様子がない。
そう言えば傷の手当てをされたとき最後に掌が当てられ温かい気のようなものを感じた。
人の傷を癒す魔法でも使ったのか?
あのモリスデンの弟子と言うだけあってそんな魔法が使えるのかも知れない。

だが、そのせいで俺の代わりにこいつが苦しむ事になるなんて…。

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