魔法の鍵と隻眼の姫
それから15年。

世界は平和に…とは言い難く、黒雲が広がり徐々に世界は荒れ、国同士の争いが増え、天災が人々を苦しめる。
モリスデンが王都の周りを結界で守り黒雲が覆うことは免れているが災いは防ぎきれず、また王都以外までは力が及ばない。
国王の努力も甲斐無く我が国を守るのが精いっぱいだった。

「なぜこんなことに・・・・」

「あの姫が生まれてからだ」

「あの姫さえ生まれてこなければ・・・」

2000年の間に国が分かれこの王国以外に王家が誕生しても伝承だけは語り継がれている。
徐々に黒く渦巻く雲を見上げ、人々は忘れかけていた伝承を引き合いに、この苦境は姫のせいだと口々に言いだした。
広がる憎悪、悪意、悲壮。
王は姫を守るために人々の前に出すことをせず後宮で大事に育てた。
それでも悪意は姫を襲い、命の危険に晒されることもしばしば。
それを守っているのは二人の王子。
頼もしく育った二人の王子は姫を溺愛していた。

「僕たちが姫を守るから、姫は安心していいよ」

姫にとって安心できるのは王と王妃、二人の兄たち、そしてモリスデンだけだった。
周りの側近も召使も身の回りの世話をする侍女でさえも姫を恐れ白い目を向ける。
悪意を向けられるたびに姫の右目が疼きうなされる。

「モリスデン、鍵は、鍵はまだ見つからないのか?」

もうすぐ姫は16になろうとするのに鍵はまだ見つからないでいた。

「すまぬ、まだ見つかっておらぬ。そもそもどんな形をしているのかもわからんのだ。そして、気配を察知してそこへ行っても何もない…魔法が阻止しているに違いない」

困り果てたモリスデンは鍵を見つけ出す一つの方法を王に提案した。

「王よ、この世界を一時止めようと思う」

「世界を止める?」

怪訝な表情の王に真剣な面持ちでモリスデンは頷く。

「さよう、世界を止め鍵が動かないようにし、見つけ出す」

「できるのか?そんなこと」

「簡単には出来ぬ。暫くの精神集中が必要だ。そして、それをするためには王の許可が欲しい」

王はモリスデンの真意を測るように見つめ、聞いた。

「時を止めるとはどのように?」

「わしは自分の山で精神統一をし、魔力を高め一気に放出し世界が止まる魔法を掛ける。人々も動物も風さえも止まる魔法だ。そして鍵を見つけ魔法を解く。短くて数時間長くても3日。わしの魔力が続く限り鍵を捜し出し見つける」

「それにより国が危険に晒されることはないのか?」

「うむ、それはわからぬ。わしの魔法にかからない魔物がいるかも知れぬ。しかし、鍵を見つけ出すにはもうこの方法しか無い」

まだ、少なからず魔物はいて、森に潜むという。
時々人々を襲っては生き長らえている。

「・・・・そうか。しかし、鍵を見つけなければ姫も、この世界も終わる・・・」

苦渋の選択。
眉間に皺をよせ目を瞑っていた王はゆっくりと目を開いた。

「わかった、モリスデン。その方法で必ず鍵を探し出してくれ」

「あい分かった。魔法の発動はいつになるかわからぬが、必ず成し遂げる。何事もなくお主達が目を覚ました時には鍵は目の前にあろう」

「頼んだぞ、最後の望みだ」

固く手を握り合い健闘を祈った王はそれから7日後、遠くの空が光を放ち雪のように光が降り注ぐ様を見た。

ああ、モリスデン、魔法を放ったのだな・・・。

そして、世界は眠りについた。


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