魔法の鍵と隻眼の姫
「フィーダおはよう。これ滋養強壮に良いっていうんだけど馬にも効くかしら?」
掌に何粒かモッコウの実を置き与えるとフィーダは器用にその実をハムハムと食べた。
「美味しい?」
鼻筋を撫でながら聞くとブフンと鼻を鳴らして返事をする。
ふふっと笑ってると隣のウォルナーが袖を引っ張ってくる。
「待って、ウォルナー今あげるから」
ウォルナーにも実をあげて鼻を撫でた。
「二人乗ると重いでしょう?ごめんね?いつもありがとうね」
ブルルンと鼻を鳴らしてすり寄るウォルナーに声を声をあげて笑うミレイア、そこに不機嫌極まりない声が聞こえる。
「おい、そこで何してる?」
息を切らせ話しかけると、笑い声が止まり振り返りもしない。
「何って、ウォルナー達に実を分けてあげてたのよ」
ズカズカと近寄りミレイアの肩を掴み振り向かせたが、俯き目を合わせようとしないミレイアに何故かイライラとするラミン。
「俺から離れるなって言ってるだろうが!」
「ここは100mも離れてないわ。馬に会いに行く自由も私にはないの?」
見上げたミレイアは毅然としていてラミンは言葉に詰まった。
「…っ、近くにいないと、守れないだろう…」
「ノニがいるから大丈夫よ私は…」
眉根を寄せ心配そうな顔をするラミンに目を背けたミレイアは顔を寄せるフィーダを撫でながら言った。
そのノニはというとフィーダの背中でウトウトと寝ている。
片眉を上げ呆れ顔をノニに向ける。
「あれで大丈夫って言えるのか?」
「今は危険も無いもの。ずっと気を張り詰めていても疲れるだけだわ。それより、夜明け前には出立したいわ。早く支度してきて」
「…ああ。お前は?」
仕方ないと言うようにため息をついたラミンが腕を組んでミレイアを見下ろした。
「私はもう支度済みよ。ここで待ってるわ。…ラミン、腕に血が…」
ラミンの袖に血が付いているのを見つけたミレイアはその腕に手を伸ばした。
手を掴みそれを阻止したラミン。
熱い手が冷えていたミレイアの手を温められどきりと胸を打つ。
「力は使うな。こんなのただのかすり傷だ、直ぐ治る」
「でも、その傷どこで?」
「…何でもない。気にすんな。着替えてくる」
心配そうに見上げるミレイアを一瞬見つめ目を逸らしたラミンは掴んでいた手を離し踵を返した。
掴まれてた手が離れ温もりが消えていくのを感じながら後ろ姿を見ていたミレイアがラミンを呼び止める。
「あ、待ってラミン。せめてこれを。それと、ノニ、ラミンに新しい服をお願い」
鞄を漁りラミンに軟膏を渡すとノニを呼んだ。
起き上がり欠伸をしながら伸びをするとぴょんと飛び上りラミンの手の上に金粉を落とす。
すると瞬く間に新しい服が出てきて毎度のことながらラミンは驚く。
「おっ、やっぱすげーな。ノニ、サンキュ。…軟膏もサンキュ。…じゃ、行ってくる」
後ろ姿を見送ったミレイアはため息を零す。
いつものラミンだった。
掴まれていた手を握り自分も普通に話せていたのにホッとした。
肩に乗り心配そうに頬をぺたぺたと触るノニに手を添え笑顔を見せた。
「大丈夫よノニ。今日もよろしくね?」
雲間から覗く空は白けてきて夜が明ける。
早く、早くこの旅が終わるようにと空を仰ぎ目を瞑った。