魔法の鍵と隻眼の姫
勢いよく飛び出して行ったラミンは黒い狼のような魔物に突っ込んで行く。
剣を引き抜き飛び上がると牙を剥き出しに襲って来る魔物を切りつけた。
着地と同時に前足を切りつけ魔物が雄叫びを上げる。

ゴオオオンと辺りに地響きのように響き渡りミレイア達にも振動が伝わった。

「あんなのと戦うだなんて……ラミンが死んじゃうわ!止めてよ!あんたあんなのと戦わせるのにラミンを雇ったの!?」

護衛とはいえ魔物と戦うだなんて無謀だ。
アマンダはミレイアの肩を揺さぶりラミンを止めろと言う。

ミレイアだってラミンに危険な事をしてほしくない。
目の前で大怪我をされた時の事を思うと胸が締め付けられる。
さらに青白い炎に照らされたラミンはまるで別人で魔物に襲われたときよりも恐怖に感じた。
ラミンがラミンじゃなくなってしまいそうな、遠くへ行ってしまいそうなあの冷たい目。

「……」

アマンダに返事も出来ず、ラミンを助けることも出来ない。
無事を祈るしか出来ない自分を歯がゆく思いながらミレイアはラミンを見つめた。

「さすがデカイだけあってなかなかくたばってくれないな?あんまりここで道草食ってる場合じゃないんだよ」

はあっと息を整え滴る汗を手の甲で拭う。
魔物もかなり弱ってきている、次で止めだとラミンは飛び上がり両手で剣を下に構え、顔の上に到達すると真っ直ぐ剣を目に突き刺した。

ギャワワッン!

首を左右に振り突き刺したまま乗っているラミンを振り落とそうとする魔物。
落とされまいとすがり付くラミンは剣に力を込めさらに押し込めた。
最後の力を振り絞るかのように暴れ倒れ込んだ魔物に吹っ飛ばされたラミンはごろごろと地面を転がり、きゃあ~っとアマンダが悲鳴を上げた。

ラミンが顔を上げると魔物はもう力尽き青白い炎が立ち上がる。
その目は冷たく青白い炎が白銀の髪を照らす。
言葉を失ったアマンダは呆然とラミンを見つめた。
ミレイアは魔物を見るラミンをあの時ほど恐ろしくは感じなかった。
少しホッとして深く息を吐く。
燃え尽きる前に魔物から剣を抜いたラミンはミレイア達の方に戻って来た。

「ラミン!いたっ」

アマンダがラミンに駆け寄ろうと立ち上がると足に痛みが走り座り込む、ラミンが駆け寄るとアマンダの前にひざまずいた。

「どうした?」

「足が……これじゃ踊れない…」

痛そうにスカートをめくり足を出すと右足首が赤く晴れていた。
逃げ出そうとして転んだ時に挫いたらしい。

「挫いたんだな。これくらいすぐに治って踊れるようになる。小娘、この軟膏痛みにも効くって言ってたよな?」

今朝貰った軟膏を取り出し隣にいたミレイアに目を向けると頷いたのを見て蓋を開けた。

「私が…」

ミレイアが自分がやると手を出したがラミンにその手を止められた。

「いい、俺がやる。お前は大丈夫か?」

何も言わず首を振るミレイアを見てラミンはアマンダに軟膏を塗る。

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