魔法の鍵と隻眼の姫
その夜更け、アマンダに抱き着かれながら寝ていたラミンがうっすらと目を覚ます。
目の端にきらりと光ったものが映り見ると焚き火の向こう側にいつかのようにノニがひらひらとミレイアの頭上で舞っていた。
また、熱を出したのか?
慌ててアマンダを引き剥がしミレイアの所へ行くと顔を覗きこみ額に手をやった。

「…どうした?国が恋しくなったか?」

熱は無い様だがホームシックにでもなったのだろうか?
心配そうに飛び回っていたノニが寝ているミレイアの顔の前に下りてきてきらりと光る雫を掬う。

「…そんなんじゃないわ…」

身じろぎして顔をローブに埋めるミレイアは声を殺して涙を流していた。
震える肩を見つめラミンはミレイアの頭をローブの上から撫でた。

王女にとっては過酷な旅だ。
今まで泣き言一つ零さずにここまで来たのは彼女の強さだろうが、慣れない野宿の上に我が儘なアマンダが自分をこき使うのだから堪ったものじゃないだろう。
アマンダを同行させたのは間違いだったか…?今更ながら後悔する。
しかし鍵の在り処を調べるためには別れるわけにもいかない。

少しでも楽になればいいが…。
ラミンはそう思うといつまでもミレイアの頭を撫で続けた。

頭を撫でられほうっと息を吐いたミレイアは止めどなく流れる涙を拭いもせず目を閉じた。
人々の悲しみや虚しさが自分の中に流れ込んでくる。
止めることも昇華することも出来ずにただ涙が溢れ胸が苦しかった。

撫で続けるラミンの手が温かくて眠れぬミレイアに少しだけ安息をもたらしてくれた。



それから二日後。
やっとメリダヌス帝国の国境付近に到着した。
ここは隣国のハウライト共和国との戦況が激しい地域だ。
長年帝国軍に戦を仕掛けられては追い返していた小国ながら強い国だった。
しかしラミン達が見る今の状況は明らかにハウライト共和国が白旗を挙げメリダヌス帝国に屈した瞬間だった。

「酷い……」

ハウライト共和国の戦士はほぼ全滅で地獄絵図が広がっていた。
至るところに戦死者が倒れ傍らに涙を流す者、生きていても虚ろで帝国軍の戦士に連れてかれるもの呻き声を上げている者。
見るに絶えない光景が広がる。

「行こう…」

ラミンが促しミレイア達はその場を離れる。
帝国軍に見つかっては厄介だ。

メリダヌス帝国はほとんどが砂漠と荒野で人里は中心地に集約している。
広い土地をもってしても作物も育たない所では人は住めない。
少しでも豊かな土地を求めた結果が戦争で隣国の土地を奪うことだった。

ハウライト共和国には渇れることのない不思議な泉がある。帝国はそれを狙ったのだろう。しかし美しい泉も破壊され血に染まっていた。
自分達の国を豊かにする為とはいえもっと他に手段はあったはず……。

見ているだけで何も出来ない歯がゆさを感じ眉値を寄せるラミン。
ミレイアもアマンダも涙を溜め何も言うことが出来ずにいた。

< 87 / 218 >

この作品をシェア

pagetop