魔法の鍵と隻眼の姫
難なくメリダヌス帝国に入り砂漠を抜け崖が切り立つ谷間に僅かな小川を見つけ今日の野宿場所に決めた。
バットリアまでは後1日。

枯れ木が立ち並ぶ林から木を拾い焚き火に火を着けランプに火を移す。
真っ暗になった夜に灯りが点る。
ミレイアはあの戦場を見てから余計に塞ぎ込んでいた。
アマンダもさすがにあの戦場を見て気が滅入る。

「あんな酷い戦場…初めて見たわ。あれで何を得たと言うの?」

「あんなの何も得ていない。人は死に土地は荒れ、あの泉も元通りになるかは分からない。残るのは虚しさだけだ…」

持ってた小枝をパキッと折り火にくべるとパチパチとはぜる音が聞こえる。
重い空気が3人を包み込んだ。

「それもこれも元を辿ればあの王女が生まれてからよね。この帝国も前はこんなに戦を繰り広げる国じゃなかったわ」

「王女が生まれたせいなんかじゃない。窮地を脱するためにこの国が選んだのが戦だっただけだ。間違った選択だとは思うが…」

「その王女が生まれたから窮地に陥ってるんじゃないの?」

「それは違う」

「みんな言ってるわよ?ノアローズ王国の異色の目を持つ王女がこの世界に災いをもたらしてるって。ノアローズ王国も酷いわよね?自分の国は魔法使いの加護があって守られてるって言うし王女を野放しにしてるなんて」

「そんなのは迷信だ。ただの小娘に何ができるっていうんだ?」

「…やけに王女の肩を持つのね?まるでその王女を知ってるみたい」

「…俺は知らねえ…」

アマンダがラミンの顔を覗き込むとふいっと目を逸らす。

目の前の小娘が異色の目を持つ王女でラミンはその国の宰相の息子であることを知らないアマンダは言いたい放題。
ラミンが何処の国の出身かも知らないのだ。

アマンダに反論できないラミンはチラリと向かい側に居るミレイアを見た。
ずっとフードを被ったままピクリとも動かない。
食事もほとんど手を付けず、黙り込んだままだった。
思わずじっと見つめているのをアマンダが見逃さず二人を交互に見るとラミンの腕を取った。

「ラミン、疲れたわ。もう寝ましょう。寒いから抱きしめて」

抱き着いてくるアマンダを無下にもできずラミンはああ、と短く返事をすると横になった。

「小娘ももう寝ろよ」

声を掛けるとコクっと頷いたように見え頭を上げたがアマンダの方に向きなおさせられた。
ミレイアが気になりアマンダが鬱陶しく感じ胸のあたりがもやもやする。
上を見ても真っ暗な雲が漂ってるだけで余計に気が落ち込む。

無理やり目を瞑り眉根を寄せると酷い戦場が瞼に浮かんだ。
自分もその戦場の中にいたのが遠い昔のように感じる。
うつらうつらと夢を見てかつての助けられなかった仲間の顔が一人一人浮かんできてラミンを苦しめた。

ごめん…助けられなくて…

ごめん…

胸の奥に押し込めてきた感情が這い出て来ようとする。
仕舞いには自分が倒してきた敵までもが浮かんできた。


・・・・

今、自分は戦場の中にいる。
土埃が舞い、剣が打ち合う音が聞こえる。
怒号と共に突進してくる騎馬隊。
矢が雨のように降ってくる。

戦わなければ仲間がやられる…

その一心で剣を振るってきた。
後ろには守るべき者がいる。
矢を打ち払い振り返るとそこには目を見開き驚愕の表情を浮かべるミレイアが立ち竦んでいた。
その右目には一本の矢が刺さり血が止めどなく流れている。

「ラミン…」

「こ、むすめ・・・」

何が起こったのかなぜミレイアがそこにいるのか考えが追い付かなく固まるラミンはスローモーションのように倒れていくミレイアをただただ見ていた。

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