魔法の鍵と隻眼の姫
アマンダに連れられ中央まで来てしまったラミンは目の前に立つ大男に睨まれていた。

アマンダとは飲み屋で出会い、夜しか会うことがなかったから他の一座の者とはほとんど面識が無かった。

「アマンダ、こいつは何だ?」

「この人はラミン。ここに来るまで一緒に旅をして守ってもらったのよ!」

腕に巻き付き嬉しそうに言うアマンダを見て大男は目尻を下げた。

「おお、そうか!いや、娘を守ってくれたとは有り難い!ラミンとやら、今日は思う存分楽しんで行ってくれ、お礼にタダで見世物を見せてやろう!」

「いや、俺は行くところがあるから…」

大男はアマンダの父親のコジットでこのコジット一座の座長。
ラミンの肩に腕を回しバシバシと叩いてきてかなり痛い。
顔を引きつりながら遠慮するも逃さないとでも言うように羽交い絞めにされた。

「何を言う!礼もしないで帰らせるわけにはいかん!遠慮せずに見て行け!そうだ!今夜は歓迎の宴も催そう!」

宴なんかいい遠慮すると何度言っても上機嫌の大男は聞く耳持たず、仲間たちにこいつがアマンダを送り届けてくれたのだと紹介して回る。
アマンダといえば観客に踊ってくれと言われ喜び勇んで中央へと行ってしまった。

「あっお前足はっ?……って、治ってんだな」

音楽が始まり力強く足を踏み鳴らすアマンダを見てすっかり挫いた足は治ってるのだと分かった。
朝も痛いと言っていた気がしたが…?
首を捻るラミンに肩を組むコジットは耳元で囁く。

「いい娘だろう?アマンダは。だがやんねえぞ?俺の大事な一人娘で一座の花形だからな」

「い、いや、遠慮しとくよ…俺には…」

娘が欲しいと言う男は数多にいるのにあっさり遠慮するラミンが珍しく片眉を上げるコジット。

俺には…、何があるって言うんだ?
ラミンは何かを言いかけ言葉が途切れ考える。
何を口走りそうになったのか分からないが一瞬、綺麗な黒髪が目に浮かんだ。

うーんと唸っていると観客からわっと歓声が上がった。
ひらりと飛び回り踊り狂うアマンダ。
あれは、もしかしたらノニを真似ているのかもしれない。
ぼーっとそんなことを思っているとさっき考えていたことはきれいさっぱり忘れてしまった。

「あっ小娘!」

唯一覚えていた黒髪でミレイアの事を思い出したラミンは連れがいるからと何とかコジットから離れると人垣をかき分けてミレイアを探した。
雷に打たれていないから近くにいるはず。
馬もそのままだったのでどうしたのか心配した。
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