魔法の鍵と隻眼の姫
「やっと静かになった…」

ため息をついたラミンは冷たくしたタオルをミレイアの額に置いて近くの椅子に座った。
薄らと目を開けたミレイアは目を彷徨わせるとラミンを見止めた。

「ラミン…ここは?」

「小娘、目が覚めたか?ここはコジット一座のテントだ。成り行きで暫くここに泊まることにした。疲れたんだろう、熱があるから休め。ここには滋養に良い温泉もあるから熱が下がったら入るといい」

「う…ん」

「今は寝ろ。付いててやるから」

頭を撫でてやると安心したように微笑み眠りについたミレイアをゆっくりと撫でたラミン。

「ノニ、こいつが起きたらいつでも温泉に入れるように服を出しといてくれ。それとこのテントに結界を張ってくれ。誰も入ってこれないように」

肩に乗るノニにそう言うと飛び立ったノニはベッドの上に金粉を撒くとミレイアとラミンの服も用意した。

「お、俺のも出してくれたのかサンキュ」

ラミンの上でくるくると舞ったノニはそのままテントの外に出て行く。
テントの上で金粉を撒くと強固な結界が張られた。
結界が張られたのが分かったラミンは安心してミレイアを見つめた。

「今は、ゆっくり休め…」

ベッドに肘をついたラミンは眠気がおそいゆっくりと目を閉じた。



ノニが結界を張り意気揚々とテントに戻ろうとした時、目の前に網のようなものが迫ってきて驚く暇もなく囚われてしまった。

「つ、捕まえた!」

「しーっ!静かに!良くやったわデハルト!」

すばしっこいデハルトは一座の青年。
アマンダの事が好きで我が儘も無理難題もいつも言いなりの下僕のような男だった。

「この虫かごに入れて」

アマンダが差し出したかごは特殊な蔓で出来ていて妖精を閉じ込めることが出来る。この中に入ってしまった妖精は力が使えず逃げることが出来ない。
籠の中でバタバタと暴れるノニを見てほくそ笑むアマンダ。

「捕まえてやったわ!妖精さん。これからあなたは一座の見世物として働いてもらうわよ」

ふふふふふ…。
何時にも増して怪しい笑を浮かべるアマンダに今までどんなわがままも聞いてきたデハルトは言い知れない不安を覚えた。

妖精は珍しい。
これを見世物にしたら一座が盛り上がるだろうが、今の彼女はいつものアマンダじゃない。

「アマンダ…いいのか?それ、お前の連れてきた奴のなんだろ?」

「いいのよ!余計なこと言わないで。デハルトこれを誰にもわからないように隠してきて!」

籠を押し付け上機嫌でアマンダは行ってしまった。
呆然と後ろ姿を見送ったデハルトは我に返ると暴れすぎて大人しくなったノニをちらりと見てサッと布を被せると辺りを見回し誰もいないことを確認して去っていった。

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