氷のような彼は陽だまりのように暖かい
そんなある日、いつも静かなこの場所が突然賑やかになった。
ドタバタと走り回るような足音が上から聞こえる。
どうやら私がいる場所は建物の下にある地下のようだ。
建物はきっとあの女が住んでいる家なのだろうと推測する。
そんなことをボーと考えていればあの女が決死の表情で走り込んできた。
いつも嘲笑うような表情のあの女がこんな顔するなんて珍しい。
「いーい、よく聞きなさい。あなたはここで身動きひとつしちゃダメよ。声も出すな。気配を消して。それが出来ないなら私があんたを殺すわ。」
私はゆっくりと頷いた。
声なんていつから出していないだろう。自分の声を忘れてしまうほど長らく喋っていない。
それに大きな音が出るほどの身動きができる体力ももうない。
「よしいいわ。お利口さんにできてたら何かご褒美を挙げなくちゃね。」
そう一言残すと女は走りさった。
しばらく騒がしい音が止むことは無かった。