白雨の騎士
突然こんな話をされて、ハンスも黙り込んだ。
無理もない。数十年一緒に暮らしていた者が魔法使いだったと言われても…
「…それでハデス州に行くのね。あそこにはまだ魔法使いがいるものね。」
「ああ。この間からその事ばかり考えてしまうんだ。両親の事を知りたいと思っていた時期もあったが、今になって突然ウォルドーフ家の人間だと言われても何もピンと来ない。ウォルドーフなんて聞いたこともないからな。。」
するとハンスはシドの手に自分の手をそっと重ねた。
「…シドは私たちの家族よ。だけど本当のご両親のことが分かるのならば、それは良いことだと思うわ。何か手掛かりが掴めるといいわね。私達はあなたの本当の家族の事を知らなくてごめんね。」
「何言ってるんだ。アーデル家には感謝しかない。ハンス達がいたから今の俺があるんだ。」
シドの言葉にハンスはにっこりと微笑んだ。
シドを引き取った時、孤児院の先生達も何も分からないと言っていたと父から聞いた。
ある日孤児院の前にまだ赤ちゃんのシドが置かれていたようだ。
シドは今でも持っているペンダントだけ握っていたらしい。
ペンダントの中には一枚の古い写真が貼られていた。
そこに映る人は王宮で近衛隊だったということまでは分かったようだ。恐らく写真の人が父親だろうと。
そのせいか、シドは昔から近衛隊に入る事が夢だった。
「そろそろ戻りましょう。」
「ハンス、ありがとう。今日帰って来れて、帰れる場所があることの有り難さを改めて感じたよ」
真剣な顔をして言うシドにハンスは思わず吹き出した。
「なに当たり前なこと言ってるのよ。さぁ行くわよ」