白雨の騎士
「…恥ずかしいところ見せてしまったね。」

マリアの言葉にシドは頭を下げた。


「私こそ、お二人の話を聞いてしまい申し訳ありません」


「ハハッ、なんで君が謝るの。ねぇ、ちょっと私の話を聞いてくれない?」


シドは顔を上げた。


「しかし…」


「私はこの城を一度出たの。だから、そんなに固くならないで。」


優しく微笑むマリアに、シドははい、と答えた。



「…私は幼い頃から勉強が好きだった。どうして雨が降るのか。どうして風は吹くのか。他の国の人達はどんな風に生活しているのか。幼い頃疑問に思うことを全て知りたいと思っていた」


マリアは一枚の写真を取り出した。

庭で花冠をつくる幼い頃アのリスと、分厚い本を読むマリアが写っていた。


「本ばかり読んでいる私を皆は変わった子供だと思っていた。城の女たちはドレスや宝石、舞踏会にお茶会を楽しんでいたが、私には窮屈でしかなかった。16になった頃、他国の王子との縁談が持ち上がった。私は蜩に断り、強引に留学すると言ってこの国を出た。」



シドは黙ってマリアの話を聞いた。



「…私の夢は学者になる事だ。そして自分の学んだ事を知らない人達に伝えたい。留学している間は本当に毎日が楽しくて仕方なかった。王族だという事を忘れられた。」


この人は本当に勉強が好きなんだな、とシドは思った。

国を捨て、地位を捨て、それでも学びたいという気持ちが伝わって来た。


「…君には夢はある?」


「わたし、は…城の近衛になる事が夢でした。」


「へぇ!じゃあ、叶ってるんだね!よかった。」


マリアの言葉にシドは首を横に振った。


「…自分は実力で近衛になれたのではありません。ここで自分の力を認めてもらうまで、私の夢はまだ叶っていません。」


シドの言葉に、マリアはアリスが言っていた事を思い出した。


「…そっか、お互いまだ夢を追っている途中なんだね。」


マリアは机の中からペンダントを取り出し首にかけた。


「…さぁ、そろそろ食事会が始まる。行きましょうか」


「はい。」


シドはドアを開けて、マリアとともに食事会の会場へ向かった。
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