霧の魔法
「大丈夫か、宙・・・。」
「あぁ、美樹生。うん、たぶん。」

 宙と美樹生は絵羽の葬儀に来ていた。

 出棺が終わり、絵羽の最期を見送ったところだった。

絵羽の母親からは斎場まで行って一緒に骨を拾って欲しいと頼まれたが、宙はどうしても行く気にはなれなかった。

 確かに病院で絵羽の臨終の瞬間に立会い、絵羽の死を見届け、こうして葬式にまで顔を出したが、宙の中では絵羽が死んだことをまだ受け入れていなかった。

 あと数日で夏休みに入る暑い日だった。

「ほんとに信じられないよ。絵羽ちゃんがこんなことになるなんて。」
「・・・。」

「あぁ、ごめん。まだ、おまえだって整理ついてないよな。」
「うん。まだ、信じてない。」

「そうだよな。わりイ・・・。」
「いや、いいんだ。本当は頭では全部わかってるんだよ、俺も。ただな、気持ちっていうか、心が受け入れてないんだ・・・家ではお袋がしっかりしろっていうけど・・・しっかりできないんだよな。」

「当たり前だよ。一番愛していた大事な人だったんだから。そんなの当たり前だよ。」
「ありがとう。美樹生、おまえっていつも俺の慰め役だな。」

「ばーか、気にすんな。幼稚園からの付き合いだろ。」
「そうだな。一人でも俺の気持ちを理解してくれる奴がいるっていうだけで、死にたい気持ちが癒されるよ。」

「ばか!なにが死にたいだよ。おまえは絵羽ちゃんの分まで生きなきゃだめだろ!」
「だよな。そう、絵羽は・・・、死んだんだよな。」

「宙・・・。」

 すっかり空は夏になり、遠くには大きな入道雲が浮かんでいた。
 
< 13 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop