霧の魔法
朝、朝食を済ませた宙は葵との約束の九時少し前に玄関先に立っていた。
夕べと違って今朝は良く晴れて霧も出ていなかった。
「おはよう!」
「おう、おはよう。」
葵は九時ぴったりに旅館の玄関先に現れた。
「時間厳守だね。」
宙が言うと、
「あたりまえでしょ。一応お客さんだから、遅刻したら失礼だからね。」
どことなく嬉しそうに葵が言った。
その笑顔に宙はハッとした。
「絵羽・・・。」
「え?なに?なんか言った?」
「え?いや、なんでもない。独り言。」
「へんなの。やっぱ変わってるよ。君。」
葵の笑顔が絵羽の微笑みに見えた。
葵は顔の大きさに比べ少し不釣合いな大きめの眼鏡を掛けていた。しかも銀縁(ぎんぶち)のさえない感じの眼鏡だ。
でも、夕べは暗く霧もあったため、気づかなかったが、眼鏡の下の葵の微笑みは絵羽の面影と重なって見えた。
『どうしても絵羽のことは忘れられない。』
心の中で宙は改めて絵羽への深い愛情と自分の思いを確かめた。
案内するといって少し先を歩く葵の後姿に絵羽のことを投影させていた。
近所を歩きながら、葵が近場の観光スポットを紹介してくれた。
昼近くになったので、二人は葵の案内で近くにあった食堂に入った。
「結構歩いたからおなかすいたでしょ?」
「え?あぁ、うん。」
「何食べる?オススメはやっぱ魚料理かな。どうする?」
「あ、うん、葵に任せるよ。」
「そう、じゃあ、この定食にするね。すみません!」
葵は店員を呼んで注文を済ませた。
「なんか、元気ないね。疲れてる?」
葵に言われて少しドキッとした。
「え?あぁ、長旅だったからね。ちょっと疲れてるかも。」
「そうなんだ。どうやってここまで来たの?」
そう聞かれた宙は東京から鈍行を乗り継いできたことを話した。
「へぇ~えらいというか、すごいというか、アホというか・・・。」
「アホだけ余計だろ。」
「えへへ、怒った?」
「金がないんだから、仕方ないだろ。高校生なんだからわかるだろ?」
「えへへ、そうだよね。でも、怒ってちょっと元気になったみたい。」
「こいつ!」
「きゃはは!」
宙が、頭を小突くふりをすると、笑いながら葵はよけるふりをした。
「ったく、葵は子どもだな。」
「なによそれ、宙だって子どもでしょ。」
「俺はこうして、一人旅とかしてるし、この旅でもっと成長したからな。葵とは違うよ。」
「なによ、えらそうに、ちょっと旅したからってそんなに急に大人になるわけないじゃん。」
「ふん、肉体的にも精神的にも鍛えられるんだよ、一人旅ってのは。葵みたいにこんなところでボーっと暮らしてるのと違うんだよ。」
「ひっどーい、なにそれ!いくら東京人だからって田舎者を馬鹿にしてるでしょ!」
ふくれっ面で歯向かってきた葵にさらに宙は追い討ちを掛けるように言った。
「田舎物を馬鹿にしてるんじゃないよ。葵のガキっぽさを指摘したの。」
「なーによ、それ、もう、案内してやんない。」
「あははは、葵、怒った?」
「怒ったわよ。」
「さっきの仕返しだよ。やられっぱなしじゃ悔しいからね。」
「やっぱ、宙の方がガキじゃん。」
「なんでだよ!」
「きゃははは、ほら、そうやってすぐ怒る。」
「あ・・・しまった。」
「あははは、ほらね。やっぱ私のほうが大人だね。すぐにひっかかる。」
「くっそ~、悔しい。」
そういった宙は思いっきり悔しそうな素振りを見せてチラッと葵を見た。
本当に楽しそうに笑ってる葵の様子を見て、凄くホッとしてる自分を感じていた。
同時にまた絵羽の面影を葵に映していた。
夕べと違って今朝は良く晴れて霧も出ていなかった。
「おはよう!」
「おう、おはよう。」
葵は九時ぴったりに旅館の玄関先に現れた。
「時間厳守だね。」
宙が言うと、
「あたりまえでしょ。一応お客さんだから、遅刻したら失礼だからね。」
どことなく嬉しそうに葵が言った。
その笑顔に宙はハッとした。
「絵羽・・・。」
「え?なに?なんか言った?」
「え?いや、なんでもない。独り言。」
「へんなの。やっぱ変わってるよ。君。」
葵の笑顔が絵羽の微笑みに見えた。
葵は顔の大きさに比べ少し不釣合いな大きめの眼鏡を掛けていた。しかも銀縁(ぎんぶち)のさえない感じの眼鏡だ。
でも、夕べは暗く霧もあったため、気づかなかったが、眼鏡の下の葵の微笑みは絵羽の面影と重なって見えた。
『どうしても絵羽のことは忘れられない。』
心の中で宙は改めて絵羽への深い愛情と自分の思いを確かめた。
案内するといって少し先を歩く葵の後姿に絵羽のことを投影させていた。
近所を歩きながら、葵が近場の観光スポットを紹介してくれた。
昼近くになったので、二人は葵の案内で近くにあった食堂に入った。
「結構歩いたからおなかすいたでしょ?」
「え?あぁ、うん。」
「何食べる?オススメはやっぱ魚料理かな。どうする?」
「あ、うん、葵に任せるよ。」
「そう、じゃあ、この定食にするね。すみません!」
葵は店員を呼んで注文を済ませた。
「なんか、元気ないね。疲れてる?」
葵に言われて少しドキッとした。
「え?あぁ、長旅だったからね。ちょっと疲れてるかも。」
「そうなんだ。どうやってここまで来たの?」
そう聞かれた宙は東京から鈍行を乗り継いできたことを話した。
「へぇ~えらいというか、すごいというか、アホというか・・・。」
「アホだけ余計だろ。」
「えへへ、怒った?」
「金がないんだから、仕方ないだろ。高校生なんだからわかるだろ?」
「えへへ、そうだよね。でも、怒ってちょっと元気になったみたい。」
「こいつ!」
「きゃはは!」
宙が、頭を小突くふりをすると、笑いながら葵はよけるふりをした。
「ったく、葵は子どもだな。」
「なによそれ、宙だって子どもでしょ。」
「俺はこうして、一人旅とかしてるし、この旅でもっと成長したからな。葵とは違うよ。」
「なによ、えらそうに、ちょっと旅したからってそんなに急に大人になるわけないじゃん。」
「ふん、肉体的にも精神的にも鍛えられるんだよ、一人旅ってのは。葵みたいにこんなところでボーっと暮らしてるのと違うんだよ。」
「ひっどーい、なにそれ!いくら東京人だからって田舎者を馬鹿にしてるでしょ!」
ふくれっ面で歯向かってきた葵にさらに宙は追い討ちを掛けるように言った。
「田舎物を馬鹿にしてるんじゃないよ。葵のガキっぽさを指摘したの。」
「なーによ、それ、もう、案内してやんない。」
「あははは、葵、怒った?」
「怒ったわよ。」
「さっきの仕返しだよ。やられっぱなしじゃ悔しいからね。」
「やっぱ、宙の方がガキじゃん。」
「なんでだよ!」
「きゃははは、ほら、そうやってすぐ怒る。」
「あ・・・しまった。」
「あははは、ほらね。やっぱ私のほうが大人だね。すぐにひっかかる。」
「くっそ~、悔しい。」
そういった宙は思いっきり悔しそうな素振りを見せてチラッと葵を見た。
本当に楽しそうに笑ってる葵の様子を見て、凄くホッとしてる自分を感じていた。
同時にまた絵羽の面影を葵に映していた。