霧の魔法
食事を済ませた二人は店を後にして、再び散歩をしながら、おしゃべりをしていた。
「そういえばさ、どうしてこんなところに来たの?」
「え?あぁ、うん、色々あってね。」
「そう、出会ったときもそう言ってたよね。なんか話しづらいこと?なら聞かないけど。」
「うん、まぁ・・・。」
「そっか、じゃあ、無理に言わなくていいよ。とりあえずこの三日は楽しもうよ。嫌なこととかあったらぜーんぶ忘れてさ。」
「うん、ありがとう。葵、いいやつだなおまえって。」
「なによ、いきなり・・・ハズイじゃん。」
照れる葵の仕草や言葉遣いがまた絵羽を思い起こさせた。
「あのさ、少しだけ・・・聞いてくれるかな?」
「え?うん、いいよ。」
「あのさ、俺、実は・・・傷心旅行なんだ。」
「傷心旅行?失恋でもしたの?」
「え、あぁ、うん、そんなとこ。」
まだ、出会ったばかりの葵に絵羽の死についての話はあまりに重いだろうと感じて誤魔化(ごまか)した。
「ふーん、そうだったんだ。そうだよね。普通の若者ならもっと観光地にいくのにわざわざ、こんなとこ選ぶのはおかしいもんね。」
「・・・・・。」
「あ!まさか!」
「え?なに?」
急に大声を出した葵の声に思わず驚いた宙は聞き返した。
「あんたまさか、自殺しようとか思ってんじゃないでしょうね?」
「え?自殺?」
「そう、それで、この霧多布にきて、岬から身を投げようとか思ってんじゃないでしょうね。」
「え、いや、そんなことは思ってないよ。」
少しはそんなことを考えなくもなかった宙はちょっと動揺した。
「ほんと?あやしい・・・。」
そう言って葵はじろりと宙の顔を睨(にら)んだ。
「おいおい、大丈夫だよ。そもそも、そんな勇気ないから。」
「死ぬのが勇気なんて馬鹿なこといわないで。自分から死ぬなんて最低だよ。そんなの勇気じゃない。」
「あ、うん、そうだね。勇気じゃないよね。生きることのほうが何倍もつらいこともあるし。」
「そう、でも、自分から死ぬなんて絶対だめだよ。辛くても生きて、本当に死ぬ時まで精一杯大切に生きなきゃだめだよ。」
「うん、俺もそう思ってるよ。世の中には死にたくなくったって死んでしまう人だっているんだから、自分から命を絶つなんて絶対しちゃいけないって思ってるよ。」
「そっか、それ聞いて安心した。」
「わかってくれたんだ?よかった。」
「大丈夫、傷心だって、きっといいことあるよ。ほら、すでに君の目の前にいいことが来てるよ。」
「え?目の前にいいことが来てる?」
「そう、ほら、こーんなかわいい葵ちゃんが目の前にいるでしょ。」
そういってわざとらしく首をかしげてみせる葵の姿に思わず宙は吹き出した。
「あははは、そうそう、ほんとだ。目の前にいいこと来てるよ。あはははは。」
「ひどーい!なによ!人が元気付けてあげようとしてるのに!」
プイっとそっぽを向いた葵の姿を見て、宙は絵羽のことを思い出しながらも葵の明るさや可愛らしさに惹かれている自分に気づいた。
「あははは、ありがとう。元気出てきたよ。」
「ほんと?よかった。なんかさーほんと、へこんでたみたいだから、正直ちょっと心配だったんだよ。」
「そっかー俺ってそんなにへこんで見えたか・・・。」
「うん、どん底って感じ。」
「だめだなぁ、ほんとはこの旅行で吹っ切って、新たな自分になるんだって思ってたんだけど・・・。」
「新たな自分か・・・そんなに無理しなくていいんじゃない?」
「無理?」
「うん、うまくいえないけど、自分は自分だし、失恋した自分も自分なんだから、かえってそれを認めてあげたほうが、気持ちが楽になるんじゃない?」
「・・・・。」
「つまりさ、どんな自分でも自分なんだから、そんな自分を好きになってあげれば、自分を認めてあげれば、その方が気持ちが楽かな、なんてね。」
「そっか、そうだよね。何も忘れることないのかな。」
「そうそう、嫌なことは忘れたいって思うかもしれないけど、それも受け入れていく方が、楽に次の自分になれるんじゃないかな。」
「そうだな。うん、そうだ!俺は俺だからね。彼女を好きだった俺も、俺だし、忘れることなんかないか。」
「だよ。なんか、ちょっと明るくなった?」
「うん、ちょっと吹っ切れた。ありがとう。葵。」
その後、葵の案内で町の資料館や温泉施設がある場所などを見て回ったが、ほとんどはおしゃべりに時間を費やしていた。
お互いの生まれ育った様子や東京の話、北海道の話など、お互いを知っていくための話は尽きなかった。
そしていつの間にか、日も暮れて、宙が泊まっている宿の夕食の時間が近づいてきた。
「あ、もう、こんな時間か・・・、そろそろ、宿に戻らないと晩飯食べ損ねちゃう。今日は一日ありがとう。」
「どういたしまして。ところで、明日のご予定は?」
「ん?いや、特には決めてない。」
「そう、それはよかった。では、明日もこの葵ちゃんがさらに観光ガイドをしてあげましょう。」
「ほんと?!うれしいよ!よろしくお願いします。」
「はーい、もちろん、料金は請求するけどね。」
「え?!マジ?」
「うっそ~、お金なんて取らないよ。」
「だぁ、ったく、どこまで本気かわかんないな葵って・・・。」
「きゃはは、まぁ、そういう奴ですから。よろしく!」
そういうと葵はアイドルのように敬礼をして小首をかしげた。
「ふぅ、先が思いやられる。」
そういいながら、絵羽には悪いと思いながらも、宙はどんどん葵に惹かれている自分を感じた。
「そういえばさ、どうしてこんなところに来たの?」
「え?あぁ、うん、色々あってね。」
「そう、出会ったときもそう言ってたよね。なんか話しづらいこと?なら聞かないけど。」
「うん、まぁ・・・。」
「そっか、じゃあ、無理に言わなくていいよ。とりあえずこの三日は楽しもうよ。嫌なこととかあったらぜーんぶ忘れてさ。」
「うん、ありがとう。葵、いいやつだなおまえって。」
「なによ、いきなり・・・ハズイじゃん。」
照れる葵の仕草や言葉遣いがまた絵羽を思い起こさせた。
「あのさ、少しだけ・・・聞いてくれるかな?」
「え?うん、いいよ。」
「あのさ、俺、実は・・・傷心旅行なんだ。」
「傷心旅行?失恋でもしたの?」
「え、あぁ、うん、そんなとこ。」
まだ、出会ったばかりの葵に絵羽の死についての話はあまりに重いだろうと感じて誤魔化(ごまか)した。
「ふーん、そうだったんだ。そうだよね。普通の若者ならもっと観光地にいくのにわざわざ、こんなとこ選ぶのはおかしいもんね。」
「・・・・・。」
「あ!まさか!」
「え?なに?」
急に大声を出した葵の声に思わず驚いた宙は聞き返した。
「あんたまさか、自殺しようとか思ってんじゃないでしょうね?」
「え?自殺?」
「そう、それで、この霧多布にきて、岬から身を投げようとか思ってんじゃないでしょうね。」
「え、いや、そんなことは思ってないよ。」
少しはそんなことを考えなくもなかった宙はちょっと動揺した。
「ほんと?あやしい・・・。」
そう言って葵はじろりと宙の顔を睨(にら)んだ。
「おいおい、大丈夫だよ。そもそも、そんな勇気ないから。」
「死ぬのが勇気なんて馬鹿なこといわないで。自分から死ぬなんて最低だよ。そんなの勇気じゃない。」
「あ、うん、そうだね。勇気じゃないよね。生きることのほうが何倍もつらいこともあるし。」
「そう、でも、自分から死ぬなんて絶対だめだよ。辛くても生きて、本当に死ぬ時まで精一杯大切に生きなきゃだめだよ。」
「うん、俺もそう思ってるよ。世の中には死にたくなくったって死んでしまう人だっているんだから、自分から命を絶つなんて絶対しちゃいけないって思ってるよ。」
「そっか、それ聞いて安心した。」
「わかってくれたんだ?よかった。」
「大丈夫、傷心だって、きっといいことあるよ。ほら、すでに君の目の前にいいことが来てるよ。」
「え?目の前にいいことが来てる?」
「そう、ほら、こーんなかわいい葵ちゃんが目の前にいるでしょ。」
そういってわざとらしく首をかしげてみせる葵の姿に思わず宙は吹き出した。
「あははは、そうそう、ほんとだ。目の前にいいこと来てるよ。あはははは。」
「ひどーい!なによ!人が元気付けてあげようとしてるのに!」
プイっとそっぽを向いた葵の姿を見て、宙は絵羽のことを思い出しながらも葵の明るさや可愛らしさに惹かれている自分に気づいた。
「あははは、ありがとう。元気出てきたよ。」
「ほんと?よかった。なんかさーほんと、へこんでたみたいだから、正直ちょっと心配だったんだよ。」
「そっかー俺ってそんなにへこんで見えたか・・・。」
「うん、どん底って感じ。」
「だめだなぁ、ほんとはこの旅行で吹っ切って、新たな自分になるんだって思ってたんだけど・・・。」
「新たな自分か・・・そんなに無理しなくていいんじゃない?」
「無理?」
「うん、うまくいえないけど、自分は自分だし、失恋した自分も自分なんだから、かえってそれを認めてあげたほうが、気持ちが楽になるんじゃない?」
「・・・・。」
「つまりさ、どんな自分でも自分なんだから、そんな自分を好きになってあげれば、自分を認めてあげれば、その方が気持ちが楽かな、なんてね。」
「そっか、そうだよね。何も忘れることないのかな。」
「そうそう、嫌なことは忘れたいって思うかもしれないけど、それも受け入れていく方が、楽に次の自分になれるんじゃないかな。」
「そうだな。うん、そうだ!俺は俺だからね。彼女を好きだった俺も、俺だし、忘れることなんかないか。」
「だよ。なんか、ちょっと明るくなった?」
「うん、ちょっと吹っ切れた。ありがとう。葵。」
その後、葵の案内で町の資料館や温泉施設がある場所などを見て回ったが、ほとんどはおしゃべりに時間を費やしていた。
お互いの生まれ育った様子や東京の話、北海道の話など、お互いを知っていくための話は尽きなかった。
そしていつの間にか、日も暮れて、宙が泊まっている宿の夕食の時間が近づいてきた。
「あ、もう、こんな時間か・・・、そろそろ、宿に戻らないと晩飯食べ損ねちゃう。今日は一日ありがとう。」
「どういたしまして。ところで、明日のご予定は?」
「ん?いや、特には決めてない。」
「そう、それはよかった。では、明日もこの葵ちゃんがさらに観光ガイドをしてあげましょう。」
「ほんと?!うれしいよ!よろしくお願いします。」
「はーい、もちろん、料金は請求するけどね。」
「え?!マジ?」
「うっそ~、お金なんて取らないよ。」
「だぁ、ったく、どこまで本気かわかんないな葵って・・・。」
「きゃはは、まぁ、そういう奴ですから。よろしく!」
そういうと葵はアイドルのように敬礼をして小首をかしげた。
「ふぅ、先が思いやられる。」
そういいながら、絵羽には悪いと思いながらも、宙はどんどん葵に惹かれている自分を感じた。