霧の魔法
「きゃはは!」
「なんだよ。急に。」

「お・と・う・とだって!おっかしい!やっぱりあたしは大人に見えるんだわ!」
「なんだよ、それ、俺がガキっぽいってことかよ。」

「そうなんじゃない?店員さんの言うにはね!」
「馬鹿にしやがって。なんで金まで払って俺が恥かかなきゃいけないんだよ。頭まで下げて。」

「あっ、それは・・・ありがとう。あんたが頭下げてくれたからきっと引き取ってくれたんだと思う。感謝してるよ。」
「え?なんだよ。急に改まって。照れるじゃんか。」

「キャハハ!単純!そういうとこが弟とか言われちゃうんだよ。」
「なんだよそれ!いい加減にしてくれ。おちょくってるのか俺を。」

「ごめん、ごめん。感謝は、ほんと。ねえ、ところで宙はいくつなの?」
「え?(宙って呼び捨てして・・・)俺?俺は高二だよ。もうすぐ17。」

「えー?そうなんだ。じゃあ、タメじゃん!あたしも高二、もう、17になっちゃったけど。やっぱ、弟で正しいんだね。キャハハ!」
「同い年だろ。誕生日がちょっと遅いだけだろう!」

「そうね。そうとも言うわ。いつなの誕生日?」
「俺?八月の十五日。」

「えーそれって終戦記念日じゃん。なんか・・・だね。」
「なんか、なんだよ!悪いか、終戦記念日で。」

「いや、悪くはないけど・・・それに夏休み中じゃん。ねえ、小さい頃嫌じゃなかった。夏休み中に誕生日って。ほら、幼稚園とか小学校とかでその月の誕生会とかあったでしょ。いっつも次の月の人と一緒でさ。」
「え?あ、うん、嫌だった。親も夏休み中だから忘れてたりしてさ。」

「え?親は忘れないでしょ。ふつう。」
「いや、うち商売やってって、特にお盆時期は忙しくって。世間のお盆休みはうちでは働いてんだよ。」

「なーに、商売って?」
「え?うーん、笑うなよ。仏壇屋。」

「仏壇屋?そんなのあるの?」
「あるよ。まぁ正式には仏具店って言って、仏壇のほかにお盆の灯篭(とうろう)とかそういうの売ってるのさ。」

「へぇ、そうなんだ。ご両親でやってるの?」
「え?いや、うち、お袋だけなんだ。親父は俺が五歳の時に死んでて、よく覚えてないんだよね。」

「あっ、ごめん。悪いこと聞いたね。」
「え、いいよ。もう、だいぶ昔のことだし、全然大丈夫。」

「兄弟は?」
「俺、一人っ子なんだ。女兄弟が欲しかったな。」

「そうなんだ。じゃあ・・・あたしがお姉さんになってあげる!」
「はぁ?同い年だろ。なんだよ。お姉さんって?!」

「だって、弟って言われたじゃん!」
「それはあの店員の目が悪かったんだよ!」

「そぅお?別に眼鏡とかかけてなかったけど。」
「コンタクトなんだろ!」

「うまい!きゃはは、なかなかいいセンスしてるね。お笑いにいけるかも。」
「なんだよ。そりゃ・・・じゃ、俺こっちだから、金返したからね。これで恨みっこなしだよ。じゃ!」

「あっ、ちょっと待ってよ。ハンカチは?あたしが貸したハンカチ。」
「あっ、えっと、まだ洗濯が・・・。」

「へへぇ、残念でした。あたしたちの縁はまだ切れそうもないわね。ハンカチ洗濯できたら呼んでね。そうだ。アドも教えとくね。」

 そういって絵羽から携帯メールのアドレスを教えて、宙にメールさせた。

「OK!これでメル友だね。あっメル姉弟(きょうだい)だね。」
「なんだよそれ。じゃあ、洗濯したら連絡する。じゃ!」

「あっ、待って。」
「なんだよ。」

「あの。ありがとう。ほんとは来るか来ないか半信半疑だったの。でも、宙は来てくれた。ありがとう。いい人だね。宙って。」
「え?」

 そういい残すと絵羽は小走りに駆けていった。
 後姿を呆然と宙は見送った。
 
 家に帰った宙は絵羽から借りたハンカチを眺めながらベットに転がっていた。

「絵羽・・・か、なんかいいコだな。最初はなんだコイツって思ったけど・・・でも、このハンカチ返したらそれでもう会うことはないんだろうな。」

 宙は、偶然に出会っただけのコなのになぜか惹(ひ)かれている自分に気づいた。
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