偽物の恋をきみにあげる【完】
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土曜日、産婦人科に行ったら、驚くほど混んでいた。

待合席を埋める殆どが、もうお腹が大きくなった妊婦さんだ。

旦那さんが付き添っている家庭もあった。

もちろん私も妊婦だ。

でもまだ、何の実感もない。

その上、子供の父親は音信不通。

産むのかどうかも決まっていない。

周りのみんながとても幸せそうに見えて、なんだか泣きたくなった。

やっと呼ばれて診察室に入り、残念な格好をさせられて、超音波だかエコーだかの検査をした。

「これが胎児だけど、まだ小さいね」

「これが……」

赤ちゃんが映っている写真をもらった。

とても小さな影だった。

これが、私と大雅の赤ちゃん。

私のお腹に、大雅の赤ちゃんがいる……。

「彼氏とちゃんと相談してみてね」

「……わかりました」

「もし産まないなら、今はまだ早くて手術出来ないから、2週間後くらいね」

念のために手術費用やらの説明を聞いて、病院をあとにした。

「産みたいな…」

帰り道、もらった写真を見ていたら、無意識に声に出していた。

産みたい、でも……大雅がいない。


──その時。

私は、急に思い出してしまった。

『瑠奈とは結婚できねーな』

……ああ、そうか。

大雅は、私とずっと一緒にいるつもりなんて、全くなかったのだ。
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