偽物の恋をきみにあげる【完】
大雅がいなくても、コタローくんと殆ど話せなくても、寝て起きたら、当たり前のように朝が来る。

そして、会社に行って仕事をして、帰ったら寝るだけ。

2人がいない日常はただのルーチンワークに成り下がって、まるで世界の終わりのような気持ちなのに、世界が終わる気配は微塵もない。

火曜日も、いつもと同じ時間に起きて、同じ時間に家を出て、会社に向かった。

朝起きたら大雅から連絡があったり、駅でばったり会ったりなんて奇跡は、当然起きない。

……このまま、もう会えないのだろうか。

どんな事情があるのかわからないが、私との恋人ゴッコを終わらせたいなら、もうそれでいい。

いや、全然よくないけれど、100万歩譲って、仮にそれでいいとしよう。

でも、私のお腹には赤ちゃんがいる。

それを知った上で逃げたなら、ただの最低クズ野郎で終わるが、大雅は知らないのだ。

責任を取れだなんて思っているわけじゃない。

たとえ大雅が結婚してくれなくても、私はこの子を産みたい。

その気持ちを、ただ知って欲しいだけだ。

だから会いたいのに、今日も音信不通のまま。

定時に仕事を終えた私は、寒い夕方の町を駅に向かって歩いていたのだが。

──あれ、あの人って確か……。

信号待ちをする何人かの中に、私は見覚えのある顔を見つけたのだ。

「あの、すいません」

私は、藁にもすがる思いで、その人物に声をかけた。
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