偽物の恋をきみにあげる【完】
もしかしたら人違いかもしれないが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

「えっと……あれ、どっかで見たことあるな」

「あの、大雅……南大雅のお友達ですよね?」

「大雅? ……あー! 大雅の彼女!」

私はぺこりと会釈をした。

やはりそうだった。

数ヶ月前、大雅と歩いていた時にばったり会った、彼の大学時代の友人だ。

「今日は? 一緒じゃないの?」

「あー、えっと……」

口ごもった所で信号が青になったので、私達は歩き出した。

「……あの、最近大雅と連絡取りました?」

「いや?」

「そうですか……」

手がかりなしか、そう溜め息をついたら、彼がまた口を開いた。

「あ、でも、つい最近、サークルの仲間が結婚する件でグループトークしたな」

「それ、いつですか!?」

思わず彼の腕に手をかけてしまい、面食らった表情をされ、「すいません」と慌てて離した。

「先週くらいじゃない? なんで?」

「えっと……」

「……もしかして、連絡取れないの?」

私は彼の言葉に、コクリと頷いた。

「そうなんだ、喧嘩でもしたの?」

「いえ、特には。……だから、忙しいのかなって思ってたんですけど」

私が言うと、彼は「忙しい? アイツが?」と何故かくすくす笑い出した。

「働いてないくせに、忙しいわけないでしょ」
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