偽物の恋をきみにあげる【完】
「え?」

大雅が、働いていない?

そんなの初耳だ。

「え、知らない? やべ、マズかったかな」

「あの、詳しく教えてください」

「確か半年くらい前かな? 仕事やめたってグループトークで。いよいよ大作家になる時が来た、ってアホなこと言ってたよ」

「……大作家?」

「あ、俺ら大学の時、文藝部だったんだよね。……ってわかる? 小説書くサークル」

「大雅が……文藝部!?」

「うん。大雅、ああ見えてすごいいい文章書くんだよね。ちゃんとペンネームもあってさ。なんだっけなー。確か、馬じゃなくて、熊、いや獅子……」

「…………とら?」

私が思わず呟くと、彼は「あーそれそれ! 虎だ!」と声を上げた。

……そっか。

やっぱり、そうだったのか。

駅前に着いて、私達は足を止めた。

「あの、もしよかったら、大雅に連絡してもらえますか? メッセージでいいんで」

「いいよ、何て打てばいい?」

「そうですね……『今夜は月が綺麗だから、あなたを掴まえに行きます』って」

「随分とロマンチックだね。いいよ、待ってて」

大雅の友人はケータイを取り出すと、すぐにメッセージを送ってくれた。

「……あ、もう返事来たよ。やっぱ暇人じゃん」

「あの、なんて?」

「『じゃあお待ちしてますよ』だって」

お待ちしてますよ? ……散々無視しておいて、いい度胸だ。


──でも。

やっと大雅を掴まえた。
< 161 / 216 >

この作品をシェア

pagetop