偽物の恋をきみにあげる【完】
そこから先の話は、ちゃんと聞いていたのに、上手く理解できなかった。

大雅の声が、右耳から左耳へただ通り抜けている気がした。

言葉としては理解できるのに、ひとつとしてリアルじゃなくて、まるで何かの物語を聞いているようだった。


『余命1年』

私と大雅が再会する少し前、彼が医師から宣告された人生の残り時間は、1年だった。

『胃の調子悪くて、あと背中痛くて。でもそんな大したことなかったんだよ。ちょっと医者行っただけなのに、死の宣告とかまじウケる』

大雅は軽く笑いながら言った。

『死ぬとかそんなの、全然実感なかった。だって普通に生活できてたから』

入院して、ほぼ延命目的の治療を受けるか、それとも、ギリギリまで自宅から通院するのか。

『まずは仕事を辞めて、それからゆっくり考えようと思った。まだ家族にも話してなかったし』

そして、最後の出勤日、職場で開いてくれた送別会の帰り道。

『瑠奈に再会しちゃったんだよね』

半年だけ恋愛ゴッコしよう、そう言ったのは、半年くらいなら大丈夫だろうと思ったから。

体がダメになっても、メールで話すくらいはできるだろうから、虎太朗が残るように時期をズラした。

『それに、虎太朗っていう別の存在がいた方が……瑠奈が本気にならなくて済むかなって』

大雅はそう説明した。
< 169 / 216 >

この作品をシェア

pagetop