偽物の恋をきみにあげる【完】
「ごめんなさい、今とにかく急いでるんで失礼します」

上司だから邪険にもしづらいので、いつもこうして適当に言葉を濁して逃げているのだ。

今急いでいるのは本当のことだが。

「そっかあ。ま、今度また誘うよ」

いいえ結構です! の言葉を必死で飲み込んで、私は「ではお先に失礼します」と会釈しつつ踵を返した。

いつもこうだ、この会社は需要と供給が見合っていない。

いいなと思う男性には、大抵奥さんや彼女がいてどうにもならない。

逆に言い寄ってくる男性は、全然好みじゃなかったり、たまに外見がよければ、主任のようなチャラ男だったり。

だから私は、もうかれこれ3年間恋人がいない。

もう25なのに、このままずっと独り身だったらどうしよう、と最近本気で不安に思う。

ブーン、ブーン……

エレベーターに乗っていると、コートのポケットの中でスマホが震えた。

『そろそろ駅着くよ。瑠奈は?』

大雅からだ。

「あと10分」

手早く返して、今ちょうど1階に着いたエレベーターから早足で降りる。

今日はこれから、大雅とデートなのだ。

まあ、デートだと思っているのは、きっと私だけなのだけれど。
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