偽物の恋をきみにあげる【完】
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「やっほー大河(たいが)ちゃん、調子はどお?」

今日も月奈(るな)は、満面の笑みで病室に入ってきた。

いつもながら、とにかくまるい顔だなあと思う。

「ち○この調子? ちょーギンギン」

ふざけてそう返すと、月奈は「サイテー」と呆れた顔をした。

俺が書いたあの物語と違って、現実の彼女は、毎日仕事を終えたあと、必ず顔を出してくれる。

気が滅入りそうに静かな黄昏時の病室が、月奈が顔を見せただけで、急に明るく温かくなる。

ありがとうは照れくさいから言わない。

月奈のお腹はだいぶぽっこりして来た。

今5ヶ月目だ。

あと5ヶ月くらいで、俺らのベビーがこの世に誕生すると思うと、なんかもう泣けてくる。

「わー、おっぱいよりお腹の標高が高い」

「は?」

「てか山地と盆地じゃん」

「盆地!? 酷っ! へこんでないし!」

すぐ怒る月奈が可愛くて仕方ない。

「ま、いーじゃん。おっぱいへこんでても好きなんだから」

「だからへこんでないも……ん…………へへ」

尖らした唇に軽くキスをしたら、月奈はちょっと照れた顔をして笑った。

やっぱりまんまるくて、満月みたいだ。

俺の世界を優しく照らす光。
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