偽物の恋をきみにあげる【完】
ソファーに戻り、その赤い表紙に目を落とす。

タイトルの下には、桂浜の龍馬像の前で撮ったツーショット写真が印刷されている。

もう少しマシなものはなかったのだろうか。

ちょっとピンボケしているし、何より私の顔がまる過ぎる。

使う前に小顔加工してくれればよかったのに。

自分ばっかイケメンに写っちゃって、ズルい。

「ねえ、虎太朗。酷いパパだよねー」

すっかり大きくなったお腹に、私は語りかけた。

もうすぐ、私達のベビーが生まれる。

男の子だと言われたので、名前は自動的に『虎太朗』に決まった。

大河が勝手に決めたのだ。

勝手に決めて、なのにその名前を呼んであげることもせずに勝手に逝った。

つくづく、嘘つきで自分勝手なパパだ。

「タイトルまでウソなんだから」

私はマジックの蓋を開けた。


『偽物の恋をきみにあげる』


──ねえ、大河。

私はあなたから、偽物なんてもらってない。

全部全部、本物だった。

私はあなたと、本物の恋しかしてないよ。

タイトルの「偽」の文字の上から、油性ペンで力強く「本」という文字を書いた。


ありがとう、大河。

私と本物の恋をしてくれて、ありがとう。

< 194 / 216 >

この作品をシェア

pagetop