偽物の恋をきみにあげる【完】
中学の同級生だった大雅と再会したのは、2ヶ月程前のことだ。
その日私は、旦那と喧嘩したという職場の先輩の酒に付き合わされ、散々愚痴られ、おまけにしこたま飲まされて、まあ早い話、結構酔っ払っていた。
先輩にやっと解放された時には、軽く千鳥足。
フラつきながら、駅へ続く大きな通りを歩く。
この辺りはオフィス街だ。
無駄に高いビルばかりが立ち並び、業務終了と共にその明かりが消えていくから、なんとなく薄暗いし、人通りも少ない。
だから、盛大に油断していたのだ。
ちょうど駅前に着いた辺りで、突然、ドンッ! という衝撃が体を襲った。
「いたたた……」
思わず尻もちをつくと、
「大丈夫ですか?」
私の目の前に、すっと手が差し出された。
どうやら前方から歩いて来た人にぶつかってしまったらしい。
「す、すいません。大丈夫で……」
答えながらその手の主を見上げる。
折しも、大きなトラックが道路を通り過ぎ、その人物の顔がヘッドライトで明るく照らされた。
「……!」
思わず息を飲む。
心臓が止まるかと思った。
「…………もしかして、大雅?」
大きく大きく見開いた、彼の猫みたいな目が、私を真っ直ぐに捉える。
「お前……瑠奈《るな》?」
中学を卒業する頃に、うちの親が隣の市にできたマンションを購入し、そこに移り住んだ。
高校は別で、大雅に全く会わなかったし、おまけに卒業して以来、私は家を出て一人暮らし。
だから、かれこれ10年間、ずっと会っていなかったのだ。
「久しぶり、瑠奈」
変わらない、人懐っこい笑顔。
突然の再会に、もう十分過ぎるアルコールが、余計にクラクラと脳に回った気がした。
南 大雅《みなみ たいが》、彼は私の初恋の人だった。