偽物の恋をきみにあげる【完】
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正月休み明け、本社から数名が企画部に異動してきて、新しいプロジェクトチームが結成された。

勿論、喜多野課長も正式に異動してきた。

そのお陰で、新年早々女子社員達の目がハート。

でも私は別に、浮かれたりはしない。

ああいうハイスペックには、必ず奥さんないし彼女がいるのだ。

もしいないとしたら、平野主任のように人間性に問題があるとしか思えない。

それに、同じ企画部と言えどチームは別だから関わることもほとんどない。

課長とお近づきになるとしたら、それはきっと私の業務が増えるという意味だ、ならば疎遠でありたい気もする。

「喜多野課長、28才ですって!」

「28で課長? すごーい!」

「課長、独身らしいですよ」

昼休みの社食は、当然のように喜多野課長の話題で盛り上がった。

みんなどこでリサーチするのだろう。

私の彼氏有無の件といい、うちの会社の個人情報の取り扱いに不安を覚える。

「あ、そういえば及川さん。彼氏できたんでしょ?」

カニクリームコロッケを口に運んでいたら、町田《まちだ 》先輩が急にそんなことを言い出した。

ちなみにこのお姉さんが、あの大雅と再会した日に私を酔わせた元凶だ。

「なんですかその情報」

「平野主任が経理の女口説いてたわよ、及川さんに彼氏できてフラれちゃったから慰めてーって」

「……」

上司がふがいない。

私は深い溜め息をついた。
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