偽物の恋をきみにあげる【完】
「お疲れ様でーす」

定時になったので、私はさっさと帰り支度をして、エレベーターへと向かった。

今日はこれから大雅と会う約束をしている。

彼に最後に会ったのは、確か仕事納めの日だったから、年末の28日。

お正月にあけおめメッセージをやり取りしただけで、年が明けてから会うのは初めてだ。

「及川さん」

エレベーターを待っていたら、不意に背後から声をかけられて、条件反射的にびくっと肩を震わせた。

大雅に会う日に限って、いつもいつも平野主任に捕まるのだ。

「あはは、驚かせちゃいましたか」

けれど、恐る恐る振り向いた私の目の前に立っていたのは、長身のインテリイケメン。

喜多野課長だ。

そういえば平野主任は、私にフラれたって騒いでいるんだっけ。

身を引いてくれたのなら何よりだ。

「あ、すいません。お疲れ様です」

慌てて頭を下げると、「そんなに畏まらなくていいのに」と困ったように笑った。

「課長も今帰りですか?」

「ええ。今日は初日ですし、顔合わせみたいなもんです。週明けからはきっと毎日残業でしょうけどね」

「暇なチームにいて、なんだか申し訳ないです」

話しながら、エレベーターに乗り込んだ。
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