偽物の恋をきみにあげる【完】
「あはは、じゃあいっそ、ルナさんもうちのチームに……あ、すいません」

喜多野課長は私の下の名前を呼んで、そしてすぐに謝罪をした。

「下の名前なんて呼んだら、セクハラになっちゃいますよね」

この人、苦笑いする顔までイケメンだ。

「いえ、全然大丈夫です」

「素敵な名前だからつい。ルナって月のことじゃないですか。ロマンチックな名前だなあって」

月、と言われて思わずドキリとした。

月は私のペンネームだから。

「ロマンチック……初めて言われました、ありがとうございます」

「いえいえ、僕の方こそ、なんだか馴れ馴れしくてすいません」

上司のくせにこの人はとても低姿勢だ。

顔だけ主任とは大違い。

エレベーターが下に着くと、喜多野課長は誰よりも先に「開く」ボタンに手を伸ばして、乗り合わせていた他の社員達を先に下ろした。

「あ、すいません」

ぺこりと頭を下げながら、私もエレベーターを降りる。

イケメンで仕事ができて、その上紳士で低姿勢。

スペックが高過ぎてクラクラしてしまう。

それにしても。

名前といい、口調といい、この妙に低姿勢な所といい……。

まるで本当に、コタローくんみたいだ。

……まさかね。

こんな引く手あまたなイケメンが、わざわざネットで彼女なんて作るわけがない。
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