偽物の恋をきみにあげる【完】
駅前に着いて、ここまで一緒だった課長と別れ、すでに待っていた大雅の元に向かう。

「ね、今のインテリイケメン、誰?」

改札を通り抜けながら、大雅が私に尋ねた。

「え? うちの課長だけど、どうかした?」

「いつだかのヤツと違って、ずいぶん楽しそうに話してたからさ」

いつだかのヤツ……平野主任のことか。

「つーか瑠奈って、ああいうのがタイプ?」

「え? いや、カッコイイとは思うよ」

「ふーん。ま、瑠奈じゃ相手にされないからやめとけ」

大雅は私の肩をポンッと叩いてニヤリと笑った。

「は? 何それどういう意味?」

「どういう意味って、ねえ?」

「なにその失礼な顔!ムカつくー!」

ムキになった私を見て、大雅は楽しそうにケラケラ笑い声を上げる。

「あー、瑠奈からかうのまじ楽しいわ」

「アンタはそうやってすぐ人をオモチャに」

「だって瑠奈、すげー可愛いんだもん」

急に甘い声で、そんなこと言うのはずるい。

不覚にも、顔がボッと火照ってしまった。

「うはっ! 赤くなった。かーわーいー」

「……あーもう、ほんとムカつく!」

今年もコイツに振り回されるのか。

……まあ、そんな1年も悪くない。
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