無愛想な王子は理想の花嫁に求婚する
それは偶然だった。

ナタリーと一緒に歩いていたアネッサ、彼女が何故ここにいるのかと数日悩んだ末にアレクシスに聞きに行こうと執務室に向かっていた廊下を曲がる寸前のところで話し声が聞こえてきた。

殿下と……女性の声?

盗み聞きするつもりはなかったが、ふと聞こえた内容に思わず足が止まってしまった。

「あれくらいで音を上げるようならティアナの代わりなどなれないぞ」

どくんっと心臓が大きく嫌な音をたてた。
無意識にネックレスを掴み聞き耳をたてるとさらに会話が聞こえてくる。

「姉さんは声が出ませんから……」

この世に自分の事を“姉さん”と呼ぶのは一人しかいない。
アネッサがここにいて、アレクシスと話している……そしてこの話の内容から導き出されるのはーー

「教育が終わらなければティアナの代わりにはなれない」

教育、代わり……?
声が出せない自分の代わりに、アネッサを……?

声など出ないのに空いている手で口を押さえる。
目の前が真っ暗になりそうになりながら背中を壁にくっつけてなんとか体勢を整えていると、止めとばかりにアネッサの呟く声が鮮明に聞こえてきた。

「あんな欠陥品が……」

その言葉を最後にティアナは駆け出した。
< 191 / 218 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop